10月21日に経済産業省が実施した2010年度税制改正要望に関するヒアリングに、日本税理士会連合会(日税連、池田隼啓)の代表メンバーが参加し、10月8日に提出している同連合会としての要望内容を説明しました。
めまぐるしく変化する経済環境に対応しながら、国は税収を確保していかなければならないため、税制改正は毎年実施することになっています。ただ、これまでは各業界団体が監督官庁などに独自にまとめた税制改正要望書を提出し、それを監督官庁が時の政府に緊急性のあるものから順番に改正を働きかけ、与党の税制調査会が翌年度の税制改正の最終的な改正項目を税制改正大綱として決定するという流れで作業が進められてきました。しかし、鳩山政権は、業界団体だけでなく、広く一般の人や企業からも税制改正要望を受け付けるようにし、同時にヒアリングも行なって現場の声を聞き入れるようにしたのです。
そこで、毎年「税制建議」として税制改正要望を取りまとめている日税連も、一要望者として経済産業省に要望書を提出。同時にヒアリングも要請していました。そのヒアリングには、日税連からは岩本俊雄副会長と上西左大信調査研究部特命委員が、そして日本税理士政治連盟(日税政)からは冨田光彦政策委員長が出席し、日税連としての税制改正要望の内容について説明を行いました。
さすがに中小企業の税務会計をサポートしている税理士の団体とあって、その内容は「少額減価償却資産の取得価額基準を30万円未満とすべきである」、「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入制度を廃止すべきである」、「社会通念上必要な交際費等の支出は原則として損金算入するとともに、定額控除限度額内の10%課税制度は廃止すべきである」といった税制の問題点を鋭く突いたものでした。
(社)日本経済団体連合会(御手洗冨士夫会長)が10月20日、「安心で信頼できる社会保障制度の確立に向けて」と題する提言を行ないました。同提言では、中小企業の退職金制度を税制でバックアップすることを要請しています。
同提言は、社会保障制度の安定性向上に向けて各制度の綻びや不備の解消に重点的に取り組み、セーフティネットとしての機能強化を図ることが急務であることを強く訴えています。
そもそも日本経団連は、大企業がその会員として組織されていることから、大企業に有利な政策の実施を政府に求めてきましたが、今回の提言では、日本経済を中小企業が支えていることをにじませています。具体的には「公的年金の抜本改革とともに、現役期に老後の所得確保が適切に進むよう、私的年金制度に対して税制上の支援を行うことは極めて重要である」と前置きし、「主として中小企業に勤務する従業員の老後の所得保障充実の観点から、平成24年に廃止される適格退職年金制度については、企業年金制度等への円滑な移行を図るため、税制上の措置を含めた適切な対応が必要である」としています。
適格退職年金制度とは、中小企業が従業員の退職金確保のために掛け金を支払う制度で、その掛け金は経費として損金計上が認められているものです。しかし、その税制上の優遇措置は平成24年3月31日で打ち切られることになっています。そこで、中小企業の退職金政策として日本経団連は「引き続き税制上の優遇措置を受けるためには、確定給付企業年金制度、確定拠出年金制度、厚生年金基金制度、中小企業退職金共済制度といった企業年金制度等に移行する必要がある」ことを訴えたわけです。
国税庁が今年6月に作成し、すでに全国の法人に配布している「源泉徴収のあらまし」に誤りが発覚。国税庁は10月15日付けでその誤りを訂正して、ホームページなどで告知しています。
誤りがあったのは「平成21年6月 源泉徴収のあらまし」32頁の「(ハ) 無償返還の届出がある場合の賃貸料相当額」に関する説明です。具体的には「使用者が役員等に対し、これらの者の居住の用に供する家屋の敷地を貸与した場合において、法人税基本通達13−1−7の規定により、その敷地を将来その役員等が無償で返還することとしているときは、その土地についての賃貸料相当額は、イ又はロにかかわらず、法人税基本通達13−1−2に定める相当の地代の額となります(所基通36−45の2)。なお、法人税基本通達13−1−2に定める相当の地代の額は、その土地の更地価額に対しておおむね年 8%相当額とされています(昭55 直法2−15、平3課法2−4、平19 課法2−3改正 )」としていました。つまり、下線の部分が間違っているところで、正しくは「(前略)なお、法人税基本通達13−1−2に定める相当の地代の額は、その土地の更地価額に対しておおむね年6%相当額とされています(平元直法2−2、平3課法2−4改正)」とすべきだったのです。
この「源泉徴収のあらまし」は、所得税の源泉徴収の事務にたずさわっている人に、源泉徴収の仕組みやその内容を理解してもらうために国税庁が作成しているもので、国内すべての法人を対象に配布されているものです。
石油連盟(会長=天坊昭彦出光興産会長)が10月15日、2010年度税制改正要望重要事項を発表しました。民主党がガソリン税などに課税されている暫定税率廃止を実行するときに合わせて新たに自動車に「走行税」を課すことを求めています。
政権与党の民主党はマニフェストで「ガソリン税、軽油引取税、自動車重量税、自動車取得税の暫定税率は廃止して、2.5兆円の減税を実施する」ことと、「将来的には、ガソリン税、軽油引取税は『地球温暖化対策税(仮称)』として一本化、自動車重量税は自動車税と一本化、自動車取得税は消費税との二重課税回避の観点から廃止する」としています。
石油連盟は、そのガソリン税の暫定税率廃止などを歓迎しながらも、2010年度の税制改正要望の重点項目として「ガソリン税・軽油引取税の抜本的見直しと走行課税の検討」、「地球温暖化対策税等の導入には慎重な検討が必要」、「今後の検討を待たず、消費税と石油諸税の適切な調整措置、とりわけTAX ON TAX 排除を直ちに実施」することを強く求めています。
この中で注目されているのは、「走行税」の創設です。石油連盟は「ガソリン税・軽油引取税の本則税率部分についても課税の適否を含め課税方式・対象・使途等を抜本的に見直すべき」と前置きした上で、「見直しにあたっては、道路の維持補修に係る費用について、自動車の電気やガソリンといったエネルギー源に関わりなく全ての自動車に公平な費用負担を求めるべく、例えば、車両重量と走行距離による「走行課税」の導入を検討すべき」としています。
国家予算の財源となる税収を左右する政府税制調査会(会長=藤井裕久財務大臣)の初会合が10月8日に開かれ、すでに出揃っている各省庁からの税制改正要望の全面見直しが決定されました。
鳩山政権が組織した政府税制調査会は、会長に藤井財務相が就任し、会長代理に原口一博総務大臣と菅直人国家戦略担当大臣が、そして、重要な事項を審議する企画委員会主査に峰崎直樹財務副大臣が起用されています。これまでは、会長はじめ調査会の委員が民間の識者から採用され、財務省が裏で審議の筋書きを立てるという官僚主導でしたが、新たな政府税制調査会は民主党がマニフェストで掲げた政治主導をしっかりと実現しているわけです。
初会合の席上、鳩山由紀夫首相は「マニフェスト(三党連立政権合意書を含む)において実施することとしている税制改正項目について、その詳細を検討すること」などを諮問しました。これにより、民主党がマニフェストで掲げていた「ガソリン税などの暫定税率廃止や特定の業界や企業の税負担を軽減する租税特別措置(租特)の抜本的見直し」が来年度の税制改正で行われることになります。やはり、国民が注目しているのは、ガソリン税などの暫定税率の廃止です。実現すれば、ガソリンは1リットル当たり約25円値下がりするとともに、新車購入時にかかる自動車取得税が4割程度、重量税も6割程度現状より減税となります。
国税庁が「大工、左官、とび職人等に対する所得税の取扱い」を全面リニューアルしました。
大工や左官、とび職人が受け取る報酬に対する現行の所得税の取扱いは、昭和30年前後に定められたものです。そのため、すでに大工などの職人の就労形態が多様化していて、現状にそぐわなくなっています。そこで、国税庁では古い通達をすべて廃止して新たな取扱いを定めることにしました。
具体的には、「報酬の支払者から作業時間を指定されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く)を受けるかどうか」や「まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうか」などを基にして事業所得を判定するとしています。
原則として、大工や左官、とび職人が受け取る報酬は、請負契約に基づくものは事業所得で、雇用契約に基づくものは給与所得として課税されることになっています。職人にとっては、事業所得として申告ができれば、仕入れた材料や機材の運搬などにかかった費用を必要経費として落とすことができるので、報酬全額が給与所得となることだけは避けたいものなのです。
ただ、大工や左官などの職人はグループを組んで仕事をこなすことが多く、そのグループの代表者が各職人に報酬を支払い、経費の支払いもその代表者が持つことから、給与所得と判断されるケースも少なくありません。
そのため、これまで国税庁は、「店舗、作業場等を有し常時一般顧客のもとめに応じていると認められる者の受ける報酬は、雇用契約によって受けたことの明らかな個々の報酬を除いては、原則として、事業所得の収入金額とする」としていました。また、従業員を抱えていない“ひとり親方”については、年収が450万円以下の場合、その年収に応じて10%から80%までの金額を給与所得として申告することを義務付けていました。
民主党の支持母体の日本労働組合総連合会(連合、高木剛会長)の古賀伸明事務局長が9月30日、衆院議員会館に藤井裕久財務相を訪ね、2010年度税制改正に関する要望書を提出しました。
連合は、「すべての働く人の雇用と暮らしを守る」をキャッチフレーズとして、大企業で働くサラリーマンから派遣社員やパートタイマーまで、働く人たちの生活環境改善のために活動している組織で、経営者団体とは相対する団体です。
したがって、連合の来年度税制改正要望では「所得格差の是正」が強く打ち出されています。具体的には、税制の所得再分配機能を強化するよう要請していて、「所得税の最高税率を引き上げて累進性を高める」ことや、「課税最低限に満たない低所得者向けに、給付付き税額控除を検討する」こと、相続税をはじめとする資産課税の強化を求めています。
一方、労働組合に参加している人たちが、税制改正要望の中で最も実現を期待しているものがあります。それは所得税の特定支出控除の拡充です。特定支出控除とは、法定されている特定支出の合計金額が給与所得控除額を超える場合、確定申告によりその超える金額を給与所得控除後の金額から差し引くことができるという制度です。現行の特定支出項目は通勤費、転任のための引っ越し費用、研修費、資格取得費、単身赴任の帰宅旅費の5項目。この支出項目について連合では「職務上の慶弔費・自動車関係費、能力開発のための費用、周辺機器を含めたパソコン購入費、通信費、書籍購入費、労働組合費等を対象項目として追加・拡大する」ことを要望しています。
鳩山政権が掲げた政治主導を実現するため、経済産業省が政務三役会議で、2010年度税制改正の要望内容を一般から募集することを決めました。これを受け、経済産業省はホームページで募集要項を公開しています。
経済産業省の毎年の税制改正要望の取りまとめ作業は、これまで経済団体などの意見を参考に要望事項を決めていました。つまり、官僚と経済界との都合を優先した税制改正要望が作られてきたわけです。
そこで、政治主導の実現を目指し、政務三役会が要望を受け付ける間口を広げることで作業の透明性を高めたといわれています。
具体的な要望の提出方法については、電子メールと書面だけで受け付け、電話や FAXでの意見提出には対応していません。留意事項としては、「経済産業政策に関わる税制改正要望」について提出することを大前提としています。さらに、提出に際しては、要望項目ごとに「要望者名」「税目(所得税・法人税等 国税・地方税の別も含めて)」「要望名」「要望の内容」「要望目的・期待する効果」を記述する必要があります。
要望受付期間は、今年10月14日18時必着とされています。ただし、ヒアリングを希望する人は今年10月8日18時必着とされているので注意が必要です。