研究開発税制は、企業が行う研究開発投資に対して、支出した費用の一定割合を法人税(個人の場合は所得税)から控除できる制度です。
要件に該当すれば、人件費をはじめとするさまざまな費用が「試験研究費」として控除の対象になります。
具体的な控除額は、「控除限度額」(試験研究費の額×控除率)と「控除上限額」(法人税額×上限率)のうち、どちらか少ない方の金額になります。
研究開発税制の対象となる「試験研究費」とは、以下の3つの条件を満たす費用になります。
【条件1】
各事業年度の所得の金額の計算上、
@ 損金の額に算入される費用
A 研究開発費として損金経理され、ソフトウェア等の取得価額に算入される費用
【条件2】
以下の@〜Bに関して「試験研究(研究開発)」を行うための費用
・@「製品の製造」
・A「技術の改良、考案若しくは発明」
・B「対価を得て提供する新たなサービスの開発」
【条件3】
・@原材料費、人件費、経費
・A委託試験研究費
・B技術研究組合の賦課金
●対象となる事例
経済産業省は「新たなサービスの開発」として適用対象となる事例を以下のように示しています。
(画像出典)経済産業省HP: 研究開発税制の概要と令和3年度税制改正について
https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/R4gaiyov2.pdf
●ビッグデータを活用した新サービスも対象に
近年の改正により、ビッグデータを活用した新サービスの開発も税制の対象に含まれるようになりました。この活用例として、次のような事例が挙げられています。
【事例@:人流分析ツール】
・スマホアプリユーザー等から取得した位置情報をもとに、分単位の位置情報、移動方向などの情報を分析し、それぞれの居住エリア・勤務エリア等の情報を推定。密に伴う感染症の感染予測、マーケティングや需要予測、観光調査などに活用する事例。
【事例A:防災・減災の支援ツール】
・保険事業によって蓄積された過去の災害時のデータをもとに、降雨データ、
SNSへの投稿内容などを分析し、エリア毎の洪?リスクや予想被害を可視
化。自治体の防災・減災対策に活用。企業向けにもより幅広いリスクに対す
るソリューション提供の事例。
(出典)経済産業省HP:研究開発税制について
https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/about_tax.html
研究開発税制における試験研究は、自社のリソースのみで行う必要はありません。
むしろ政府は、外部の技術や人材を活用したオープンイノベーションの促進を目指しており、研究開発税制においてもオープンイノベーションを活用した試験研究費を「特別試験研究費」として、一般の試験研究費よりも高い減税効果を得られるよう整備されています。
具体的には一般の試験研究費の控除率が「1%〜14%」であるところ、特別試験研究費の控除率は「20%〜30%」になります。
以下のような共同・委託試験研究の活動が、特別試験研究費の対象になります。
制度の類型 | 控除率 |
---|---|
特別研究機関、大学等との共同・委託試験研究 | 30% |
スタートアップ等との共同・委託試験研究 | 25% |
その他の民間企業等との共同・委託試験研究 | 20% |
中小企業者の知的財産を使用して行う試験研究 | |
技術研究組合の組合員が協同して行う試験研究 | |
高度研究人材の活用に関する試験研究 | |
希少疾病用医薬品・特定用途医薬品等に関する試験研究 |
(※)上記の控除を適用するには、税務申告において【オープンイノベーション型】を適用する必要があります。税理士にご相談ください。
研究開発税制の対象となる「試験研究」とは、事物、機能、現象などに関する新たな知見の獲得や新しい応用の考案を行う創造的な活動で、自然科学に係るものであることが求められます。新製品の製造や新技術の発明に限定されるものではありませんが、そこには新規性、創造性、不確実性、計画性、再現可能性といった性質が求められるため、すでに量産方法が技術的に確立している方法で製品の製造などは行為は、新規性や創造性がないとされ、対象外とされます。
また、国税庁は、この税制における「試験研究」にあたらないものとして、以下の(1)〜(16)の活動を示しています。
(1) 人文科学及び社会科学に係る活動
(2) リバースエンジニアリング(既に実用化されている製品又は技術の構造や仕組み等に係る情報を自社の製品又は技術にそのまま活用することのみを目的として、当該情報を解析することをいう。)その他の単なる模倣を目的とする活動
(3) 事務員による事務処理手順の変更若しくは簡素化又は部署編成の変更
(4) 既存のマーケティング手法若しくは販売手法の導入等の販売技術若しくは販売方法の改良又は販路の開拓
(5) 性能向上を目的としないことが明らかな開発業務の一部として行うデザインの考案
(6) (5)により考案されたデザインに基づき行う設計又は試作
(7) 製品に特定の表示をするための許可申請のために行うデータ集積等の臨床実験
(8) 完成品の販売のために行うマーケティング調査又は消費者アンケートの収集
(9) 既存の財務分析又は在庫管理の方法の導入
(10) 既存製品の品質管理、完成品の製品検査、環境管理
(11) 生産調整のために行う機械設備の移転又は製造ラインの配置転換
(12) 生産方法、量産方法が技術的に確立している製品を量産化するための試作
(13) 特許の出願及び訴訟に関する事務手続
(14) 地質、海洋又は天体等の調査又は探査に係る一般的な情報の収集
(15) 製品マスター完成後の市場販売目的のソフトウエアに係るプログラムの機能上の障害の除去等の機能維持に係る活動
(16) ソフトウエア開発に係るシステム運用管理、ユーザードキュメントの作成、ユーザーサポート及びソフトウエアと明確に区分されるコンテンツの制作
(出典)国税庁HP:租税特別措置法42の4(1)−2
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/sochiho/750214/01/01_42_04a.htm
研究開発税制の適用については、顧問税理士にご相談ください。
海外資産の相続に注意しましょう
相続税の無申告や申告漏れに対する税務調査は、毎年高い精度で行われています。
事務年度 | R1 | R2 | R3 | R4 |
---|---|---|---|---|
実地調査件数 | 10.635件 | 5,106件 | 6,317件 | 8,196件 |
申告漏れ等の非違件数 | 9,072件 | 4,475件 | 5,532件 | 7,036件 |
非違割合 | 85.3% | 87.6% | 87.6% | 85.8% |
1件あたりの申告漏れ | 2,866万円 | 3,496万円 | 3,530万円 | 3,209万円 |
1件あたりの追徴税額 | 641万円 | 943万円 | 886万円 | 816万円 |
(参考)国税庁HP:各年度分の「相続税の調査等の状況」から作成
注目すべき数値は、上記の表の「非違割合」です。非違割合とは、実地調査により申告漏れや誤りが見つかった割合のことで、例年約85%と非常に高い水準で推移しています。このことから、税務調査が入ると多くのケースで追徴課税が生じる可能性があるといえます。
また、これらの数値は実地調査のみの件数ですが、文書や電話、税務署での面接などによって発覚した申告漏れに対しても、追徴課税が行われています。
近年、税務調査によって申告漏れが増加しているのが海外資産です。海外資産に関連する実地調査での申告漏れ件数は増加傾向にあり、前回は、コロナ禍前の水準を超えています。
(画像出典)国税庁:令和4事務年度における相続税の調査等の状況より
日本の税制では、被相続人か相続人のどちらか一方でも日本に住んでいたり、過去10年内に日本に住んでいたりすれば、国内外のすべての財産が日本の相続税の課税対象となります。
海外資産はCRS情報をはじめとする租税条約等に基づく情報交換制度など、さまざまな情報網を利用して捕捉されているため注意が必要です。
相続税の申告や節税に関して気になることは、早めに顧問税理士に相談しましょう。