インボイス制度において仕入税額控除を適用するには、適格請求書発行事業者から交付を受けた「適格請求書」の保存が原則として必要です。
しかし、別の者が立替払いをしている場合、適格請求書の交付を直接受けられないことがあります。
例えば、ビルのオーナーがテナント事業者の水道光熱費を立替払いし、後からそれぞれの負担額を各テナントに請求する場合、電力会社等からの適格請求書はビルのオーナー宛てに交付されます。
各テナント事業者は、ビルのオーナーからの請求書類は受け取ることができても、電力会社等からの適格請求書は受け取れません。
この場合、ビルのオーナーから各テナント事業者に対する書類(立て替えた金額を精算するための書類。以下「立替金精算書」)を交付する場合がありますが、この書類を保存しても仕入税額控除の要件を満たさない可能性があります。
立替払いを介した取引において仕入税額控除を適用するには、立替払いをした者(例:ビルのオーナー)から交付された立替金精算書と、仕入れ先の適格請求書(例:電力会社等による適格請求書。コピーでも可)を受け取って保存するか、あるいは、テナントが多くて適格請求書のコピーの交付が困難な場合は、立替払いをした者(例:ビルのオーナー)が適格請求書の原本を保存した上で、一定事項を記載した立替金精算書を交付する方法があります。
次の図は、この2つの方法を説明した国税庁の資料です。
(画像出典)国税庁:オンライン説明会「応用編」資料
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_setsumeikai.htm
・適格請求書(原本またはコピー)と立替金精算書の両方を保存(図の上)
・一定事項を記載した立替金精算書のみを保存(適格請求書は立替払いをした者が保存)(図の下)
立替金精算書のみを保存する場合の「一定事項」とは、仕入税額控除を適用するための情報です。
具体的には、仕入先(例:電力会社等)がインボイス発行事業者か否か、適用税率ごとの区分などが必要になります。インボイス発行事業者かどうかを確認できるよう、仕入先(例:電力会社等)の名称や登録番号などもわかるようにしておくことも必要です。
ただし、こうした情報が別途書面や契約書等で明らかにされている場合は、立替金精算書に記載されていなくても構いません。(国税庁:インボイスQ&A問94より)
その取引が、そもそも適格請求書の交付義務が免除される取引にあたる場合は、帳簿保存のみで仕入税額控除を適用することができます。
例:3万円未満の公共交通機関による旅客の運送や自販機サービスなど
ビルのオーナーなどから立替金精算書の交付を受けていない場合、自社の仕入税額控除のために作成を依頼しづらいことがあると思います。
その場合は、自社(立替払いをしてもらう企業)において、立替金精算書の内容に変わる明細書を作成し、立替払いをした者(例:ビルのオーナー)の確認を受けて保存すればよいこととされています。
この方法は、相手の確認を受けた仕入明細書の保存でも仕入税額控除を受けられるルールを活用したものです。
立替払いをした者(例:ビルのオーナー)から確認を受ける方法については、明細書をメールなどで送付して確認の返信を受けることなどが考えられます。
国税庁のWebサイトでは、あらかじめ明細書に「一定期間内にご連絡いただけない場合、確認済みとします」という一文を入れておくことで、返事がなくても確認を受けたことになると説明されています。
(参考)国税庁:通達・Q&A「よくあるお問合せなど」立替金精算より
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_faq.htm
ふるさと納税の住民税からの控除額(特例分)は、「住民税(所得割)」の2割が上限とされています。
この「住民税(所得割)」は、定額減税の適用「前」の金額です。
したがって、ふるさと納税の限度額に定額減税の影響はありません。
定額減税は、所得税や住民税の納税者に対し、令和6年分の所得税から「3万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族)」を、令和6年度分の住民税(所得割)から「1万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族)」を減税する方法で実施されます。
これに対して、住宅ローン控除とは「年末のローン残高×控除率」で計算した金額を、その年の所得税から控除するものです。
定額減税と住宅ローン控除の合計額がその年の所得税額を上回った場合、どちらかが十分に受けられないのではないかと心配している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
所得税から先に控除されるのは「住宅ローン控除」になります。
このことは、国税庁の定額減税のQ&A等などで示されています。
例えば、税額控除と定額減税を適用する前の所得税額が40万円であり、住宅ローン控除が30万円、定額減税(所得税)が12万円である場合、まずは40万円から住宅ローン控除30万円が控除され、残りの金額から定額減税分が控除されます。
したがって、住宅ローン控除の減税額が定額減税の実施によって縮小されることはありません。
控除しきれなかった定額減税分に対しては、控除不足額に相当する「調整給付金」が自治体から支給されます。
この調整給付の実施方法については、内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」(地方創生サイト)で公開されている自治体向けの資料によって方針が示されています。
同サイトの中に、以下のQ&Aがあります。
問 2-5-8 住宅ローン減税など税額控除を受ける納税者については、調整給付はどのように支給されることとなるのでしょうか。
(答)
○ 定額減税においては、住宅ローン減税など税額控除がなされた後の所得税額等に対して、ひとり4万円を減税することを検討しているものと承知しています。
○ 調整給付においても、これと同様に、住宅ローン減税など税額控除後の所得税額等では減税しきれない分を給付することとなります。
(引用元)地方創生サイト:地方公共団体向け文書及び資料「Q&A(給付金・定額減税一体支援枠(第4版))」より
https://www.chisou.go.jp/tiiki/rinjikoufukin/juutenshien/jimurenraku.html
この問から読み取れるとおり、住宅ローン控除などの税額控除が適用された後の税額が定額減税未満になった場合、控除しきれない額は「調整給付金」として個人に支給される方針です。
調整給付金は、所得税と住民税の不足分を合わせて市町村(令和6年度分の個人住民税の課税団体)から支給されることになっています。
実施される時期は令和6年夏以降になる見通しです。(同Q&A問2-5-2参照)
調整給付金の計算は、所得税については令和5年分の所得から、控除不足額を推計する方法で行われます。
そのため、令和6年の所得が確定した後、調整給付金と、確定した不足額に過不足が生じることが考えられます。
これについては、給付額に不足が発生した場合のみ、追加給付が検討されているとのことです。(同Q&A問2-5-6,2-5-7参照)
調整給付金は、1万円未満の端数切り上げて「万円単位」で支給されます。
端数を切り上げる理由については、厳密な計算をしても上記のように過不足が生じる可能性があることや、地方自治体における事務負担軽減のためであると説明されています。(同Q&A問2-5-9)
(※)本記事の内容は2024年5月末時点の情報です。