法人税の交際費課税の対象にならない「少額飲食費」について、その1人あたりの金額が、5,000円以下から10,000円以下に引き上げられます。
税制改正大綱では、「地方活性化の中心的役割を担う中小企業の経済活動の活性化や、『安いニッポン』の指摘に象徴される飲食料費に係るデフレマインドを払拭する観点」からの改正であると説明されています。
令和6年4月1日以後に支出する飲食費から適用されます。
少額飲食費とは、社内飲食費を除く、1人あたり一定額以下の飲食費のことです。
社内飲食費とはもっぱら社内の者やその家族の接待のための飲食費のことを意味しますので、少額飲食費については、社外の者への接待飲食費などが対象になります。
なお、1人あたりの金額の消費税分については、税込み経理方式と税抜き経理方式によって計算方法が変わります。
税込み経理であれば税込み、税抜き経理であれば税抜きで判断します。
税抜き経理方式であっても、飲食店側がインボイス発行事業者でなければ、その場合の1人あたりの金額は消費税がないもの(税込みと同じ)として判定します。
ただし、その飲食店が令和11年8月30日までの経過措置の対象になる場合は、経過措置によって控除できない分(例:80%控除期間中は消費税相当額の20%)を1人あたりの飲食費に含めて判定します。
少額飲食費を適用するには、次に掲げる事項を記載した書類を保存することが必要です。
・飲食等の年月日
・飲食等に参加した者の氏名または名称
・飲食等に参加した者との関係
・飲食等に参加した者の数
・飲食費の金額
・飲食店、料理店等の名称と所在地
・その他飲食費であることを明らかにするために必要な事項
(※)改正点については令和6年度税制改正大綱の内容に基づいています。
(参考)財務省HP:令和6年度税制改正大綱
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/index.html
賃上げ促進税制とは、前年度から賃上げを実施した企業について、その法人税額(個人事業主は所得税額)から、賃上げ額に対する一定割合を控除できる制度のことです。
物価高への対応等の観点から、この税制が強化されます。
従来の制度は、全企業向け(主に大企業向け)の制度と中小企業向けの制度に分かれていましたが、新制度では「中堅企業向け」の枠を間に創設し、大企業向けよりも緩和された条件で税制を適用できる新しい枠が創設されます。
【企業規模の一覧表】
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
全 企 業 |
青色申告書を提出する 全企業または個人事業主 | 青色申告書を提出する 全企業または個人事業主 |
中 堅 企 業 |
‐ | 【新設】青色申告書を提出する従業員数2,000人以下の企業または個人事業主 |
中 小 企 業 |
青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の法人等)または従業員数1,000人以下の個人事業主 | 青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の法人等)または従業員数1,000人以下の個人事業主 |
(※)マルチステークホルダー方針の公表及びその旨の届出の要件は、全企業では「資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上」または「従業員数2,000人超」のいずれかにあてはまる場合に、中堅企業では「資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上」にあてはまる場合に必要になります。
賃上げ促進税制には、賃上げによる基本の控除率と、さらに一定要件を満たすことによる控除率の上乗せ措置があります。
令和6年度税制改正では、この上乗せ措置による控除が見直されました。
この見直しによって、最大控除率が5%アップしています。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
全 企 業 向 け |
基本:最大25%(2段階) 上乗せ:教育訓練費の増加で+5% 【最大30%】 |
基本:最大25%(4段階) 上乗せ:@教育訓練費の増加で+5%、A子育て・女性活躍支援認定で+5% 【最大35%】 |
中 堅 企 業 向 け |
‐ | 基本:最大25%(2段階) 上乗せ:@教育訓練費の増加で+5%、A子育て・女性活躍支援認定で+5% 【最大35%】 |
中 小 企 業 向 け |
基本:最大30%(2段階) 上乗せ:教育訓練費の増加で+10% 【最大40%】 |
基本:最大30%(2段階) 上乗せ:@教育訓練費の増加で+10%、A子育て・女性活躍支援認定で+5% 【最大45%】 |
なお、給与の増額による基本の控除率について、全企業向け(大企業向け)の制度では若干不利な改正が行われています。
大綱によれば「より高い賃上げへのインセンティブを強化する」ために、控除条件と控除率が下記のとおり改正されています。
【控除率の一覧表】
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
全 企 業 向 け |
継続雇用者の給与等支給額 ・前年度比+3%以上…15% ・前年度比+4%以上…25% |
継続雇用者の給与等支給額 ・前年度比+3%以上…10% ・前年度比+4%以上…15% ・前年度比+5%以上…20% ・前年度比+7%以上…25% |
中 堅 企 業 向 け |
‐ | 継続雇用者の給与等支給額 ・前年度比+3%以上…10% ・前年度比+4%以上…25% |
中 小 企 業 向 け |
全雇用者の給与等支給額 ・前年度比+1.5%以上…15% ・前年度比+2.5%以上…30% |
改正なし |
(※)役員(使用人兼務役員を含む)、役員の特殊関係者、個人事業主と特殊の関係のある者の給与は判定に含まれません。
上乗せ措置の一つである「教育訓練費」の要件にも改正があります。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
全 企 業 向 け |
【教育訓練費】 前年度比+20% …控除率+5% |
【教育訓練費】 前年度比+10% …控除率+5% |
中 堅 企 業 向 け |
‐ | 【教育訓練費】 前年度比+10% …控除率+5% |
中 小 企 業 向 け |
【教育訓練費】 前年度比+10% …控除率+10% |
【教育訓練費】 前年度比+5% …控除率+10% |
教育訓練費による上乗せ措置については、控除率はそのままで、前年度比の増加要件が緩和されています。
ただし、改正後は賃上げ促進税制を適用したい事業年度の教育訓練費の額が「全雇用者に対する給与の0.05%以上」でなければなりません。
少額ではダメだということです。
なお「教育訓練費」とは、その職務に必要な技術や知識を習得・向上させるための費用をいいます。
法人が自ら行う場合の費用(外部講師謝金等、外部施設使用料等)、他の者に委託する場合の費用(研修委託費等)、他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用(外部研修参加費等)などが該当します。
その企業が、厚生労働省による「くるみん」の認定または「えるぼし」の認定を受けていることで、さらに5%を上乗せするものです。
今回の賃上げ促進税制から追加されました。
全企業向けは「プラチナくるみん」または「プラチナえるぼし」の認定、中堅企業向けは「プラチナくるみん」または「えるぼし三段階目以上」の認定、中小企業向けは「くるみん以上」または「えるぼし二段階目以上」の認定が上乗せの条件になります。
新しい賃上げ促進税制では、その事業年度の税額から控除しきれない金額がある場合、それを翌年度以降5年間にわたって繰り越すことができるようになります。
構造的・継続的な賃上げを果たすことを目的とした改正であり、繰り越した税額を控除できるのは、全雇用者の給与等支給額が前年度より増加している事業年度に限られます。
新しい賃上げ促進税制は、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において適用されます。
(※)この記事は令和6年度税制改正大綱の内容に基づいています。
(参考)財務省HP:令和6年度税制改正大綱
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/index.html