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退職金からの源泉徴収税額の計算 近年の改正内容をおさらい

退職金は基本的に、退職者から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けて会社側で正確な税計算を行い、その税額の徴収・納税までを完了させるしくみになっています。
しかしながら、退職金は頻繁に支給するものではありません。
にもかかわらず、しばしば税制改正によって細かい変更が加えられています。
今回は、近年の改正点を踏まえ、現行制度の退職金の税計算をおさらいします。

近年の退職金に関する税制改正

退職所得の計算に関する近年の主な改正点は、下記の2つです。
・短期退職手当等が創設された
・退職者が過去にもらった確定拠出年金の重複期間の調整対象が「前14年」→「前19年」に拡大された

短期退職手当等の創設

「短期退職手当等」とは、平成25年からはじまった「特定役員退職手当等」の拡充措置です。
「特定役員退職手当等」では、勤続年数5年以下の法人の役員の退職所得の計算において、いわゆる「2分の1課税」を適用しないために創設されました。
創設の趣旨としては、「退職金なら2分の1にできる」ということを前提に、短期間のみ在職を予定している役員が、在職中の給与をあえて低く設定し、その分を退職金に繰り延べるという租税回避が目立ったからです。
令和4年1月1日から施行されている「短期退職手当等」も同様の制度になります。
役員以外の者についても同様の租税回避の実態がみられるようになったことから、勤続年数5年以下の従業員などにも規制範囲を拡大しました。
しかし、勤続年数がたまたま5年以下になっただけの普通の従業員もたくさんいますので、すべてから「2分の1課税」を外すことは適切ではありません。
そこで、「短期退職手当等」では、退職所得控除額を除いた後の金額が300万円を超える場合にのみ規制の対象としています。
例えば、勤続年数5年の従業員に退職金500万円を超える額を支払うと該当します。
【計算例】
・勤続年数5年で退職金510万円が支払われた場合
退職所得控除額
5年×40万円=200万円
・退職所得控除額を除いた後の金額
 510万円−200万円=310万円>300万円

また、300万円を超える場合でも、役員のように全体に2分の1課税を適用しないのではなく、300万円超過分にのみ2分の1を適用しないこととしています。
この「短期退職手当等」が創設されたことによって、現行の退職所得の計算は、次の3つに分かれることになります。

退職手当の区分 勤続年数 退職者 退職所得の金額
特定役員退職手当等 5年以下 役員等 (退職金−退職所得控除額)
短期退職手当等 5年以下 役員等以外 【退職所得≦300万円の場合】
退職所得×2分の1
【300万円<退職所得】
150万円+(退職金−(300万円+退職所得控除額))
一般退職手当等 上記以外 (退職金−退職所得控除額)×2分の1

確定拠出年金を受けた者の重複期間の改正

超高齢化社会に向けた時代の変化に対応するために、確定拠出年金の整備が進んでいます。
それに伴い、確定拠出年金を受け取った者の退職所得控除額の計算方法にも改正が行われました。

【退職所得における「勤続年数」とは】
退職所得の計算において非常に重要なものに、退職者の「勤続年数」があります。
この計算が正しくなければ退職所得控除額が正しく計算されず、徴収する税額も変わってしまいます。
この「勤続年数」は、基本的には入社から退社までの期間から計算します。1年未満の月数は1か月であっても1年に切り上げます。
ただし、「同じ年」や「前4年内」に他社からも退職金を受けている退職者については、重複している勤続期間を退職所得控除額の計算から控除しなければならないというルールがあります。
他社からの退職金の有無については、退職者から提出を受けた申告書の内容で判定しますが、例えばグループ会社からの支給であったりする場合は、退職者自身が「会社が把握しているだろう」という意識になって申告しないことも考えられますので注意が必要です。

【確定拠出年金における改正点】
改正の影響を受けるのは、すでに確定拠出年金から老齢給付金を受け取っている退職者に対して退職金を支払う場合の勤続年数の計算です。
一時金として受け取る老齢給付金は、退職所得と同じ課税方法が適用され、この場合、加入年数が勤続年数として計算されます。
しかし、確定拠出年金の老齢給付金は、60歳から好きな時期に受け取ることができます。
そのため、受給する時期を調整して多額の退職所得控除を受けることにならないよう、他社からの退職金よりも長めの期間をとって、重複期間を控除するルールになっています。
改正前は、確定拠出年金の老齢給付金の受け取り可能年齢は、60歳から70歳までであり、それによって重複期間の調整が必要になるのは、「前14年内」に受け取った確定拠出年金でした。
改正後は、令和4年4月から受け取り可能年齢が75歳までに引き上げられたことによって、この期間が「前19年内」に延長されています。令和4年4月1日以降に受け取る老齢給付金から適用されています。

退職金からの源泉徴収の計算方法

退職金を支給する会社は、退職者からの「退職所得の受給に関する申告書」に基づいて所得税及び復興特別所得税と住民税を計算し、退職金の支給額から徴収します。
徴収した所得税等は税務署へ、住民税は市役所へ、それぞれ翌月10日までに納めます。
それぞれの税額を計算するには、退職金の支給額から「退職所得」を計算します。

退職所得の計算方法

(退職金の額−退職所得控除額)×2分の1

・退職金の額とは
税金を徴収する前の退職手当等の総額です。

・退職所得控除額とは
退職金から控除する金額です。
「退職所得の受給に関する申告書」の内容に基づいて計算した「勤続年数」を基に、下記の方法で計算します。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
(最低80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数−20年)

障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、上記の退職所得控除額に100万円を加えます。

・勤続年数とは
基本的には入社年月日から退職年月日までの期間から計算します。
1年未満の期間は、1年に切り上げます。
例えば、勤続期間が「15年2か月」の場合、勤続年数は16年です。
なお、同じ年や前年以前に退職金や確定拠出年金を受け取っている場合、勤続年数を調整しなければならない場合があります。

退職金にかかる税金の計算方法

所得税及び復興特別所得税

退職所得にかかる所得税及び復興特別所得税は、下記の速算表から計算します。

退職所得の金額
(1,000円未満切り捨て)
税率 控除額 源泉徴収税額
(1円未満切り捨て)
195万円未満 5% 0円 (A)×5%×102.1%
195万円以上 〜330万円未満 10% 97,500円 (退職所得×10%−97,500円)
×102.1%
330万円以上 〜695万円未満 20% 427,500円 (退職所得×20%−427,500円)
×102.1%
695万円以上 〜900万円未満 23% 636,000円 (退職所得×23%−636,000円)
×102.1%
900万円以上 〜1,800万円未満 33% 1,536,000円 (退職所得×33%−1,536,000円)
×102.1%
1,800万円以上 〜4,000万円未満 40% 2,796,000円 (退職所得×40%−2,796,000円)
×102.1%
4,000万円以上 45% 4,796,000円 (退職所得×45%−4,796,000円)
×102.1%

住民税

退職所得にかかる住民税は、下記の計算式になります。
市町村民税=退職所得×6%(100円未満切り捨て)
道府県民税=退職所得×4%(100円未満切り捨て)

退職者から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取っていない場合

所得税及び復興特別所得税は「退職金の額×20.42%」、住民税は「退職金の額×6%、退職金の額×4%」で計算します。
「退職所得の受給に関する申告書」がなければ、勤続年数を計算することができないため、退職所得控除額の適用はなく、2分の1課税の適用もありません。

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