令和5年10月から、全国最低賃金が1,000円に引き上げられ、各都道府県でも引き上げが行われています。
人的控除(扶養控除・配偶者(特別)控除・障害者控除・ひとり親控除・寡婦控除・勤労学生控除)を適用するには、年間の合計所得金額にそれぞれ上限があります。
上限ギリギリで控除を受けてきた配偶者や扶養親族がいる従業員が、申告書を提出した後に金額をオーバーしていたことに気がつき、訂正を求めて駆け込んでくることもあるかも知れません。事前に注意喚起をしておくと安心です。
すべての人に関係する改正ではありませんが、「30歳以上70歳未満の国外居住親族」について扶養控除を適用する場合、通常の扶養控除の要件(※)に加えて、@留学により非居住者となった者、A障害者、B生活費または教育費に充てるための38万円以上の送金を受けている者のいずれかの要件を満たさなければならなくなりました。
令和5年分の年末調整や確定申告における「30歳以上70歳未満の人」とは「昭和29年1月2日〜平成6年1月1日までの間に生まれた人」です。
この改正のうち、年末調整で特に注意が必要になるのは、@留学生とB38万円以上の送金受給者になります。
(※)通常の扶養控除の要件は、本記事の最後に掲載しています。
(※)令和5年から変わるのは「扶養親族」だけですので、配偶者が非居住者であってもその配偶者控除・配偶者特別控除については、これまでどおり適用できます。
まず@の留学生は、扶養控除を受けるための書類に加えて「留学ビザ等の書類」を、扶養控除申告書等と一緒に提出または提示してもらうことが新たに必要になります。
「親族関係書類」「送金関係書類」が必要である点は従来と変わりませんので、これに「留学ビザ等の書類」を加えた合計3点の書類を提出または提示してもらうことになります。(※1)
「留学ビザ等の書類」とは、留学先の国のビザや在留カードのことです。
留学を理由に非居住者となっている者のみを対象とするため、この「留学ビザ等の書類」は、留学の在留資格に相当する資格でその国に住んでいることがわかるものである必要があります。(※2)
(※1)前年から変わりがない場合は、前年以前に提示した書類を再度用いることが認められています。このような場合、扶養控除等申告書の提出を受ける際、従業員に対して変更がないことを確認するよう国税庁が呼びかけています。
(参考)国税庁:令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(以下、『国税庁扶養控除Q&A』)(Q21より)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/kokugai/index.htm
(※2)書類の用意が難しければ、B38万円以上の送金要件で扶養控除を受けることも可能です。
続いて、Aの 障害者とは、次の?から?までのいずれかに該当する人をいいます。
(1)精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人
(2)児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター又は精神保健指定医から知的障害者と判定された人
(3)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人
(4)身体障害者福祉法の規定により交付を受けた身体障害者手帳に、身体上の障害がある者として記載されている人
(5)戦傷病者特別援護法の規定により戦傷病者手帳の交付を受けている人
(6)原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律第 11 条第1項の規定による厚生労働大臣の認定を受けている人
(7)常に就床を要し、複雑な介護を要する人
(8)精神又は身体に障害のある年齢 65 歳以上の人で、その障害の程度が上記の(1)、(2)又は(4)に該当する人と同程度である人として市町村長、特別区の区長や福祉事務所長の認定を受けている人
(参考)国税庁:国税庁扶養控除Q&A(Q6より)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/kokugai/index.htm
最後は、「B38万円以上の送金受給者」です。
これまでも扶養控除の要件である「同一生計であること」(同じ収入源で生活していること)を担保するために、国外居住親族の扶養控除には「送金関係書類」の提出が求められていました。
しかし、その送金額までは、これまで明確な基準がありませんでした。
今回の改正は、扶養控除に限り、一部の年齢層について「最低送金額」を定めたものとなります。
つまり、この要件で扶養控除を申告する従業員がいる場合、送金関係書類の有無だけでなく、その金額が「38万円以上であるか」を確認しなければならなくなったということです。
家族が海外に住んでいる場合、配偶者に子どもの分もまとめて送金することもあるかもしれません。
しかしそうすると、その送金に関する書類は、配偶者への送金関係書類(配偶者控除のための書類)としては認められるものの、子どもの扶養控除のための書類として取り扱うことができないとされています。これは、「38万円以上の送金を受けている者」に限らず、国外居住親族について配偶者控除や扶養控除などを受ける場合に共通するルールです。そのため、年末調整では、各人別の「送金関係書類」を提出してもらう必要があります。
令和5年分からは、「B38万円以上の送金を受けている者」の対象者が2人以上いれば、各人について「38万円以上」の送金関係書類が必要になります。
(参考)国税庁:国税庁扶養控除Q&A(Q34より)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/kokugai/index.htm
送金関係書類に記載されている金額が外貨であることも多いと思います。
この場合の「38万円以上」の判定は、送金額を円換算して行います。
国税庁は、この円換算方法について3つの方法を提示しています。
(参考)国税庁:国税庁扶養控除Q&A(Q7より)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/kokugai/index.htm
円換算のルールは、原則的には送金に使用した金融機関における送金日の「電信売買相場の仲値」(TTM)を使用します。
送金に使用した金融機関以外にも、居住者(従業員)の主たる取引金融機関のTTMなど合理的なものを継続して使用することが認められます。
年内に複数回送金している場合は、その年の最後の送金日のTTMか最後の送金時に実際に適用されたレートによって一括で円換算し、「38万円以上」判定してもよいとされています。
円預金口座と同じ金融機関から預金である円を外国通貨に両替えしてそのまま送金する場合は、円預金口座から引き落とされた額で判定することができます。
クレジットカードの決済額を負担する形で送金している場合の円換算も、方法@〜Bを使用します。
ただし、方法@は、「クレジットカード利用日のTTM」で円換算します。
利用回数が多い場合は、方法A(クレジットカードの最終利用日のレートを使用)や方法Bがよいでしょう。
・配偶者以外の親族
・16歳以上
・合計所得金額48万円以下
・本人と同一生計
・青色申告者の事業専従者としてその年に給与をもらっていない
・白色申告者の事業専従者ではない
「配偶者以外の親族」とは、子、孫、親、祖父母、兄弟姉妹、義親など6親等内の血族と3親等内の姻族をいいます。
「本人と同一生計」の「本人」とは、年末調整を受ける従業員のことです。
「青色申告」や「白色申告」の事業専従者の要件については、日本の個人事業主の家族従業員として税制上の優遇を受けている場合を意味します。