令和5年度税制改正大綱によるインボイス制度の改正点を解説します。
インボイス制度において事務的・金銭的な負担が不安視されてきた部分を、全体的に緩和する方針で改正されています。
改正点の1つめは、免税事業者からインボイス発行事業者になった場合の消費税の納税額を、一定の間、売上税額の2割とする特例になります。
詳しくは、前月の記事もご参照ください。
【対象となる事業者】
・免税事業者からインボイス発行事業者に登録した事業者
・課税事業者選択届出書を提出したことによって、事業者免税点制度の適用がなくなった事業者
【適用期間】
令和5年10月1日〜令和8年9月30日までの日の属する各課税期間
例:個人事業主の場合、下記4年分の消費税の申告が対象になります。
・令和5年分(R5.10.1〜R5.12.31)
・令和6年分(R6.1.1〜R6.12.31)
・令和7年分(R7.1.1〜R7.12.31)
・令和8年分(R8.1.1〜R8.12.31)
改正点の2つめは、税込み1万円未満の取引きについて、帳簿への一定事項の記載のみで仕入税額控除の適用を認める特例です。
本則課税を適用する課税事業者が仕入税額控除を適用するには、原則として「インボイスの保存+帳簿への記載」が必要になるところ、少額な取引に限り、インボイスの保存を不要とする特例になります。
この特例によって、税込み1万円未満の請求書やレシート等であれば、インボイスの記載要件を1つ1つ確認しなくても経理ができるという、買い手側の事務負担が軽減されます。
【対象となる事業者】
下記のどちらか1つにあてはまる事業者が対象になります。
・「基準期間」における課税売上高が1億円以下
・「特定期間」における課税売上高が 5,000 万円以下
「基準期間」とは、2期前の課税期間のことです。
課税期間は通常1年ですので、たとえば3月決算法人の場合、令和6年3月期(R5.4.1〜R6.3.31)の基準期間は、令和4年3月期(R3.4.1〜R4.3.31)になります。
「特定期間」は前課税期間の開始から6か月間のことですので、たとえば3月決算法人の令和6年3月期(R5.4.1〜R6.3.31)の特定期間は、令和5年3月期の開始6か月間(R4.4.1〜R4.9.30)になります。
【適用期間】
令和5年10月1日から令和11年9月30日の期間中の取引きに適用されます。
課税期間による区切りではないため、令和11年10月1日以降の取引きからは適用できません。
なお、この6年間は、インボイス発行事業者でない業者からの課税仕入れについて、仕入税額相当額の80%や50%の仕入税額控除を行うことができる期間と同じになります。
【税込み1万円未満の判定方法】
税込み1万円未満にあたるかどうかは、個々の商品やサービスの価格ではなく、一回の取引の合計額で判定します。
たとえば、1万3,000円の取引の内訳が6,000円の商品と7,000円の商品購入であったとしても、1万3,000円で判定しなければならないため、特例の対象にはならず、「インボイスの保存+帳簿への記載」が必要になります。
また、月額で発注しているサービスであれば、相手の稼働日等で按分して判定することはできません。
対象になる取引きは「1万円未満」ですので、税込み1万円ジャストの取引きは対象外になります。
次の取引きについては、一定事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除を適用することができます。
・3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
・簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等
・古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物の購入
・質屋を営む者のインボイス発行事業者でない者からの質物の取得
・宅地建物取引業を営む者のインボイス発行事業者でない者からの建物の購入
・インボイス発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品の購入
・3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
・郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたもの)
・従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)
改正点の3つめは、少額な「適格返還請求書」(通称、返還インボイス)の交付義務の免除についての特例です。
売上げに係る対価の返還等(返品・値引き・割戻しなど)を行う場合、その金額が「税込み1万円未満」であれば、その返還インボイスの交付義務を免除する、という内容になります。
インボイス制度では、売り手であるインボイス発行事業者が返品、値引き、割戻しといった「売上げに係る対価の返還等」にあたる行為を課税事業者に対して行う場合、売り手側に、返還インボイスの交付義務が発生します。
しかし、そうすると日常的によく起こる少額な値引き等についても、売り手側に返還インボイスの発行義務が生じてしまうことになり、売り手側の事務負担の増大が懸念されていました。
今回の特例は、この売り手側の負担を緩和するためのものです。
たとえば、買い手が振込手数料を差し引いて購入代金の振り込みをし、売り手側で、売上代金との差額を売上値引として処理する場合、本来であれば、売り手側が振込手数料分の値引きをしたことについての返還インボイスの交付義務を負わなければならないところ、この特例によって、その交付義務がなくなります。(通常、振込手数料は1万円未満であるため)
すべての事業者で適用できます。
また、適用に期限はなく、恒久的な措置になります。
インボイス発行事業者になるには、税務署にあらかじめ「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出することによって、登録を受ける必要があります。
この登録申請書などの提出期限に関するルールが、次のとおり緩和されます。
インボイス制度の開始にあわせて令和5年10月1日に登録したい場合、その提出ルールが、下記のとおり緩和されます。
現行 | ・原則、令和5年3月31日まで ・上記期限までに提出できなかったことに困難な事情があれば、その事情を記載することによって令和5年9月30日まで申請可 |
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改正後 | ・令和5年9月30日まで申請可 ・令和5年4月以降の申請であっても、困難な事情の記載は不要 |
免税事業者が課税期間の初日から登録を受けたい場合、その提出期限が、下記のとおり緩和されます。
現行 | 登録を受けたい課税期間の初日の前日から起算して1か月前 |
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改正後 | 登録を受けたい課税期間の初日から起算して15日前 |
免税事業者が令和5年10月1日〜令和11年9月30日までの日の属する課税期間において登録を申請する場合、提出日から15日以後の日を登録希望日として申請します。
たとえば、令和6年2月1日から登録を受けたい場合、令和6年2月1日を希望日とする申請書を、令和6年1月17日までに提出すれば良いことになります。
インボイス発行事業者が登録を取り消す場合、登録の取り消しを求める届出書を提出します。
この提出期限についても、下記のとおり緩和されます。
現行 | 取り消しをしたい課税期間の前課税期間の末日から起算して30日前の日の前日 |
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改正後 | 取り消しをしたい課税期間の初日から起算して15日前の日 |
(※)令和5年度税制改正大綱の内容に基づいています。必ず最新の法令をご確認ください。