一般の課税事業者(簡易課税を選択していない課税事業者)は、消費税の納税額を「売上税額−仕入税額」で計算します。
この「売上税額」と「仕入税額」を計算する方法を、インボイス制度では「割戻し計算」と「積上げ計算」という名称で区別します。
さらにインボイス制度では、売上税額に「積上げ計算」を適用する場合、仕入税額にも「積上げ計算」を適用しなければならないという新しい規制が設けられます。
まずは「割戻し計算」と「積上げ計算」の中身を確認しましょう。
割戻し計算とは、課税期間中(通常、1年分)の売上高や仕入高の税込み合計額に110分の100(8%対象なら108分の100)を乗じた額に、10%(8%)の消費税率を乗じて税額を計算する方法です。
【計算例】
・税込み2,000万円に対する税額(税率はすべて10%)
2,000万円×100/110≒1,818万1,000円(千円未満切り捨て)
1,818万1,000円×10%(※)=181万8,100円
(注)実際の計算では消費税額(国税分:7.8%)と地方消費税額(地方税分:消費税額×22/78)に分けて(会計ソフトが自動で)計算します。この記事ではわかりやすいように10%や8%としています。
積上げ計算とは、請求書や領収書などに記載した消費税額を1件ずつ足し合わせる方法です。
請求書や領収書を発行するタイミングで端数処理が毎回行われるため、割戻し計算の結果とは一致しません。
たとえば、税込み1万円の請求書2,000通を発行し、積上げ計算で処理した場合、年間の売上高はさきほどと同じ税込み2,000万円でも、売上税額は下記のようになります。
【計算例】
・税込み1万円(うち消費税額909円)×2,000通に対する税額
909円×2,000通=181万8,000円
インボイスの端数処理は、税率(10%または8%)ごとの合計額に対し、切り上げ・切り捨て・四捨五入のいずれかを企業側で選ぶことができます。
そこで、切り捨てを選び、さらに売上税額に積上げ計算を適用した場合、インボイスを発行するたびに消費税の計算から除外される端数が増えるため、売上税額の減少に繋がります。
このことから、取引回数が多い小売業などでは、一般的に、割戻し計算よりも積上げ計算のほうが納税額を抑えやすいという特徴があります。
ところが、インボイス制度では、売上税額に積上げ計算を適用すると、仕入税額にも積上げ計算を適用しなければならないというルールが設けられました。
売上税額に積上げ計算を適用したい企業は、この点に注意が必要となります。
なぜなら、相手のインボイスの端数処理の方法が、自社と同じとは限らないからです。
仕入税額に積上げ計算を適用する場合、売上の逆で、受け取ったインボイスに記載された消費税額を合計していくのですが、相手の端数処理が自社ソフトの設定と異なる場合、これまでどおり課税仕入れを入力しても、端数の差によって、正しい仕入税額控除の計算ができない可能性があるのです。
対応方法としては、インボイスに記載された税額と自社ソフトで計上された「仮払消費税等」の額が合っているかを、入力担当者が目視で毎回チェックすることが考えられますが、インボイスの数が多い企業では安易にこの対応を導入するわけにもいかないと思います。
では、こうした企業はどのような選択をすると良いのでしょうか。
仕入税額の積上げ計算には、「帳簿積上げ計算」という方法を使用することも認められています。
「帳簿積上げ計算」とは、課税仕入れの都度、支払対価に110分の10(8%の対象は108分の8)を乗じて算出した金額を「仮払消費税等」などとして帳簿で計上し、帳簿上に積み上げた「仮払消費税等」の合計を仕入税額とする方法です。
この時、入力時の端数処理は、切り捨てと四捨五入の二択になります。
「課税仕入れの都度」とありますが、ある程度まとめて入力することも認められますので、気になる方は、下記のリンクから国税庁のQ&Aの問98「仕入税額の計算方法」をご覧ください。
この「帳簿積上げ計算」であれば、現行の経理方法とほぼ変わらない企業が多いと思いますので、「売上税額を積上げ計算にしたいけれど、経理の事務負担が増えることは避けたい」という企業で検討する価値があります。
なお、積上げ計算と帳簿積上げ計算を併用しても構いません。
(参考)国税庁:インボイス制度に関するQ&A目次一覧
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/qa_invoice_mokuji.htm
売上税額であれば、割戻し計算と積上げ計算の併用が可能です。
つまり、売上税額においては「割戻し計算・積上げ計算・併用」の3パターンを選択することができるということです。
これに対し、仕入れ税額は、割戻し計算と積上げ計算のどちらかに統一しなければなりません。
ただし、積上げ計算と帳簿積上げ計算の併用であれば可能です。
ややこしくなってきましたので、最後に、売上税額の3つの選択肢に対して、選択できる仕入税額の計算方法まとめます。
〇は選択可能、×は不可です。
売上税額 | 仕入税額の選択可否 | |
---|---|---|
割戻し計算 | 割戻し計算 | 〇 |
積上げ計算(帳簿積上げを含む) | 〇 | |
割戻しと積上げの併用 | × | |
積上げ計算 | 割戻し計算 | × |
積上げ計算(帳簿積上げを含む) | 〇 | |
割戻しと積上げの併用 | × | |
割戻し計算と積上げ計算の併用(※) | 割戻し計算 | × |
積上げ計算(帳簿積上げを含む) | 〇 |
(※)併用とは、たとえば取引先ごとに割戻し計算と積上げ計算を使い分けるような運用を指します。ただし、一か所でも積上げ計算を適用していれば、仕入税額も積上げ計算(帳簿積上げを含む)としなければなりません。
非居住者(※)に該当する親族について控除対象扶養親族としての申告があった場合、これまでは、まず年初に「非居住者である親族」の欄に〇を付けてもらい「親族関係書類」の提出を受けることで、年中の源泉徴収時における扶養親族等の数に加算することができました。
そして、年末調整前に「生計を一にする事実」の欄に送金額を追記してもらい、さらに、それがわかる「送金関係書類」の提出を受けることで、年末調整で扶養控除を適用することができました。
このように年初と年末の2段階において対応が必要になる点は、改正後も同じです。
以下、変更点をまとめます。
(※)非居住者とは、国内に住所がなく、かつ、現在まで引き続いて1年以上国内に居所を有しない者をいいます。
変更点の大部分は、年初の対応になります。
年初に「非居住者である親族」の欄に〇を付ける代わりに、同欄に新設された下記の4項目のいずれか1つにチェックをつけることとなりました。
【チェック項目】
・16歳以上30歳未満又は70歳以上
・留学
・障害者
・38万円以上の支払
まず「16歳以上30歳未満又は70歳以上」を検討し、該当しなければ「留学・障害者・38万円以上の支払」のうち、該当するものの1つにチェックをしてもらいます。
「38万円以上の支払」とは、申告者本人(給与の受給者)から年内に生活費又は教育費に充てるための支払いを38万円以上受ける者のことで、年初は見込み額で判定します。
「留学・障害者・38万円以上の支払」のうち、複数に該当する場合は、1つにチェックをつけてもらいます。
チェックするものによって、昨年と提出書類が変わるものがあるため、従業員から質問があったときはその点を踏まえてアドバイスをするとよいでしょう。
下線部分が変更点になります。
チェック項目 | 年初(源泉徴収) | 年末(年末調整) |
---|---|---|
16歳以上30歳未満 又は70歳以上 |
親族関係書類 | 送金額の追記+ 送金関係書類 |
留学 | 親族関係書類+ 留学ビザ等書類 |
送金額の追記+ 送金関係書類 |
障害者 | 親族関係書類 | 送金額の追記+ 送金関係書類 |
38万円以上の支払 | 親族関係書類 | 送金額の追記+ 38万円送金書類 |
提出書類についての説明は、国税庁の下記リンクに掲示されている、「令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係)」などからご確認いただけます。
(参考)国税庁:国外居住親族に係る扶養控除等の適用について
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/kokugai/index.htm