令和2年分の年末調整から、配偶者控除等申告書の様式が新しくなります。
その名も「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」。どうしてこうなったのかというと、令和2年分から始まる「基礎控除額の見直し」と「給与所得控除額の引き下げ」という2つの改正によって、新たに「基礎控除申告書」と「所得金額調整控除申告書」が誕生し、さらにそれが「配偶者控除等申告書」と兼用様式になったからです。
今回は、新様式のうち、「基礎控除申告書」の合計所得金額の見積額の計算欄と控除額の計算欄について解説します。
なお新様式は、国税庁のホームページからダウンロードできます。
国税庁:給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除及び所得金額調整控除の申告
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_73.htm
■基礎控除申告書:「合計所得金額の見積額の計算」
合計所得金額の見積額の計算欄には、年末調整を受ける従業員本人の合計所得金額の見積額(年末までの見込額)を記載します。
合計所得金額とは
「合計所得金額」とは、給与所得やそれ以外の所得も含めた1年間の全ての所得の合計です。
源泉分離課税が適用されるものは対象になりません。
また、事業所得、不動産所得、山林所得、総合課税の譲渡所得にマイナスがあれば、一定のルールで他の所得と損益通算した後の金額となります。
「給与所得」か「給与所得以外の所得」の2区分に
合計所得金額については、シンプルに「給与所得」と「給与所得以外の所得」の2つに所得を区分して記載すればよいことになりました。
「給与所得以外の所得」は所得金額の合計のみで構いません。
記憶にある方もいらっしゃると思いますが、旧様式の「配偶者控除等申告書」にあった合計所得金額の記載欄は、所得の種類ごとに収入金額や必要経費の欄があり、会社にオープンにする情報量が非常に多かったですよね。確定申告に不慣れな方にとっては所得の区分なども難しく感じられたのではないでしょうか。
よって、前年より書きやすくなったのではないかと思います。
基礎控除申告書では、合計所得金額から、基礎控除の額の判定と配偶者控除等の控除額区分の判定を行います。
■基礎控除申告書:「控除額の計算」
「基礎控除の額」の欄には基礎控除の適用額を、「区分1」と書かれた欄には配偶者控除等を申告する場合、A〜Cの区分を記載します。
基礎控除の額
基礎控除は、年末調整や確定申告で全員が受けられるおなじみの所得控除です。
これまでは一律38万円でしたが、令和2年分からはその人の「合計所得金額」によって金額が変わります。
【令和2年分以降の基礎控除】
合計所得金額 | 基礎控除 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | なし |
上記のとおり、基礎控除が適用できるのは、合計所得金額が2,500万円以下の人です。
2,400万円を超えると、基礎控除の額は下がります。
なお、給与収入が2,000万円を超える人は、そもそも年末調整はできず確定申告をしてもらうことになるので注意してください。
配偶者控除等の控除額区分
合計所得金額が1,000万円以下であれば、配偶者控除や配偶者特別控除を受けるための本人の所得要件を満たします。
控除額は、900万円以下(A)、950万円以下(B)、1,000万円以下(C)の3段階で変わるので、AからCのうち該当する区分を「区分1」の欄に記載します。
続いて右隣の配偶者控除等申告書に移り、配偶者本人の所得等から「区分U」を判定し、配偶者控除・配偶者特別控除の額を算定します。
課税事業者が高額特定資産を購入すると、翌年から一定の間、消費税の免税事業者になることが制限されます。
新型コロナ税特法ではこの制限を解除することが可能です。
たとえば、コロナ禍に入る前に課税事業者になることを選択して大型の設備投資を実行した事業者の方は、要件に該当しないか一度確認してください。
■高額特定資産の取得による免税制限とは
まずは新型コロナ税特法の前提となる、高額特定資産の取得による免税制限を確認しておきましょう。
翌期から2年間免税に戻れない
課税事業者が高額特定資産を購入すると、その課税仕入れのあった課税期間の初日から3年が経過する日の属する各課税期間は、免税事業者になることが制限されます。(消費税法第12条の4第1項)
【例】12月決算法人の会社(簡易課税を選択していない※)がX1年5月1日(課税期間:X1.1.1〜X1.12.31)に高額特定資産を取得した場合
→免税事業者になれない課税期間
・X2.1.1〜X2.12.31
・X3.1.1〜X3.12.31
※簡易課税を選択している課税期間中に取得したときは、この制限は受けません。
高額特定資産とは
税抜き1,000万円以上の棚卸資産や調整対象固定資産のことです。(消費税法施行令第25条の5)
調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の一定の固定資産のうち、税抜き100万円以上のものをいいます。(同令第5条)
1,000万円・100万円の判定は、一の取引単位で計算した価格で行います。
一の取引単位とは、通常一組、一式で取引をするようなものは一組、一式とするというものです。
■新型コロナ税特法で免税制限がなくなる
新型コロナ税特法では、一定の収入減少要件を満たす事業者が、税務署長の承認を受けることで、高額特定資産の取得による免税制限を解除できるとしています。(新型コロナ税特法第10条第5項)
収入減少要件とは
令和2年2月1日〜令和3年1月31日までの間のうち、任意の連続した1ヶ月以上の期間の事業による収入が、前年同期比で概ね 50%以上減少していることが要件です。
この収入が減少している期間を含む課税期間のことを「特定課税期間」といいます。
「特定課税期間」がいつになるかで、この特例を申請できる期限が大きく変わります。
いつまでに購入した高額特定資産が対象になるか
「特定課税期間」の初日以後、2年を経過する日の属する課税期間まで(通常、特定課税期間とその翌期)に仕入れた高額特定資産です。
法定の要件で免税になれない事業者は対象外
基準期間や特定期間の課税売上高等が1,000万円を超えるなど、税法上の要件で納税義務が生じる課税期間は、この特例の対象になりません。
このことからこの特例を使いやすいのは、コロナ禍が始まる前に、消費税の還付を受けるため課税事業者を選択し、設備投資を実行した事業者と考えられます。(もちろんこれ以外にも使えるケースはあります)
■新型コロナ税特法を受けるための手続き
免税制限を解除するには、税務署長の承認を受けることが必要です。
必要書類
承認を受けるには、次の申請書類を期限内に提出します。
・新型コロナ税特法第 10 条第4項から第6項の規定に基づく納税義務の免除の特例不適用承認申請書
・収入減少が確認できる書類(例:損益計算書、月次試算表、売上帳、現金出納帳、預金通帳の写しなど)
申請期限
次の期日のいずれか遅い日となります。
ア:特定課税期間の確定申告書の提出期限
イ:高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の末日
アは、国税通則法第11条による災害その他やむを得ない理由があるとして申告期限の個別延長を受けている場合、その延長された後の期限となります。
申請期限の事例
【例】
・10月決算法人
・令和元年12月に高額特定資産を取得
・新型コロナウイルスの影響で令和2年5月中の売上高が前年同期比で60%減少
・国税通則法による申告期限の延長は受けていない
<申請期限>
この例の「特定課税期間」は令和2年10月期(R1.11.1〜R2.10.31)です。
したがって申請期限は「令和2年12月末」になります。
<解説>
ア:特定課税期間の確定申告書の提出期限
→令和2年12月末
イ:高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の末日
→令和元年10月31日
いずれか遅い日なので、アとなります。
この事例で無事に承認を受けることができれば、本来、課税事業者となるはずの令和3年10月期〜令和4年10月期は免税事業者になることができます。(法定の要件で免税事業者になれない場合を除く)
参考資料
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/keizaitaisaku/shohi/pdf/syouhizei3.pdf