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令和2年度税制改正大綱の内容(オープンイノベーション税制、エンジェル税制について)

令和2年度税制改正大綱によると、持続的な経済成長を図るため、ベンチャー企業への投資を促す税制の創設や見直しが行われています。
出資者に税制上の優遇措置を設けることで、若い企業にとって常に課題となる資金調達を税制面から支え、経済成長につなげる目的があります。
投資を行う方はもちろんですが、投資を受ける側の経営者の方にとっても、今後、ご自身の企業への出資を検討している方が現れた時、相手にどのようなメリットがあるのか把握することはとても大切です。
今回は、令和2年度税制改正大綱の中から、
・オープンイノベーション税制の創設
・エンジェル税制の見直し
の内容を見ていきます。

■オープンイノベーション税制の創設

オープンイノベーション税制とは、「会社から会社」の出資に関する税制です。 「特定事業活動を行う」会社から、ベンチャー企業に行った出資のうち、最大25%の金額が、出資側の会社の所得控除になるという制度になります。
「特定事業活動を行う」会社とは、大綱によると"自らの経営資源以外の経営資源を活用し、高い生産性が見込まれる事業を行う"、あるいは"新たな事業の開拓を行うことを目指す"といった会社になります。
国内事業会社や国内事業会社によるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が該当します。CVCには、事業会社やその子会社が運営し、持分の過半数以上を所有するファンドなどが該当します。

オープンイノベーション税制は出資額等に要件がある

オープンイノベーション税制を適用するには、出資先から交付される株式が、経済産業大臣の証明のある「特定株式」である必要があります。
そもそもこの税制で所得控除の対象になるものは、出資先から交付される「株式」の取得価額の25%以下の金額なのですが、この「株式」について「特定株式」の要件を満たすことが必要になります。
「特定株式」の主な要件は、次のとおりです。

【出資額の要件】
・1件あたり1億円以上であること
・中小企業者から出資を行う場合は、1,000万円以上であること
・外国法人への出資の場合は、5億円以上であること

【出資先の要件】
・出資先の会社が設立10年未満であること
・産業競争力強化法の新事業開拓事業者のうち同法の特定事業活動に資する事業を行う内国法人の株式であること

【その他】
・資本金の増加に伴う払い込みにより交付される株式であること

細かい要件がいろいろとありますが、オープンイノベーション税制には、出資元、出資先、出資額などに形式的な要件があるということを押さえておきましょう。

オープンイノベーション税制の注意点

ここからは出資をした後の話なのですが、もし出資によって得た株式の全部または一部を取得から5年以内に譲渡したり、5年以内に配当を受け取ったりした場合、それぞれに応じた金額を益金に算入することとしています。
まず、この税制で所得控除を適用するには、出資を行った後に特定株式の25%以下の金額を「特別勘定」で経理することが必要となります。
特別勘定で経理した額が、すべて損金に算入されます。
ところが出資から5年以内に「特別勘定の取り崩し事由」が発生した場合、「特別勘定」として経理していた額のうち、その事由に応じた額を益金としなければなりません。
この「特別勘定の取り崩し事由」にあたる主なものが、特定株式の譲渡や、その配当金の受け取りになります。
「特別勘定の取り崩し事由」は他にもあるので、出資を行う方は必ず確認しておきましょう。
オープンイノベーション税制を活用したい場合は、
・出資元、出資先、出資額等が要件に合致しているか
・出資後はどのような点に注意したらよいか
ということを念頭に、税理士にご相談ください。
適用期間は、令和2年4月1日から令和4年3月31日度末までとなります。

■エンジェル税制の見直し

つづいては「個人から会社」への出資となる「エンジェル税制」の改正です。
優遇を受けるのは個人ですが、手続きは出資を受ける側(会社側)も行わなければならないため、双方が制度の全体像を把握しておかなければなりません。
中小企業庁によると12年ぶりの見直しになるということですから、そもそも制度自体をご存じない方も多いのではないでしょうか。

エンジェル税制とは

エンジェル税制とは、企業して間もないベンチャー企業の資金調達先を、個人投資家に拡大することを目的とした税制です。
通常、創業して間もないベンチャー企業といえば知名度も低く、その資金調達として個人投資家から出資を募ることは難しいのですが、エンジェル税制では出資を行った個人投資家(エンジェル)の税金を優遇することによって、ベンチャー企業への投資を促進する狙いがあります。
個人投資家が受けられる優遇税制は、投資をした年に次の2つのパターン(A、B)を選択することになります。

優遇措置A 優遇措置B






「投資額−2,000円」をその年の総所得金額から控除 投資金額の全額をその年の他の株式譲渡益から控除



・設立5年未満の中小企業(改正前:3年未満)
・前事業年度までの営業活動におけるキャッシュフローが赤字
・新しい事業活動を行っている(設立経過年数によって要件が異なる)
・大企業の子会社でないこと
・設立10年未満の中小企業
・新しい事業活動を行っている(設立経過年数によって要件が異なる)
・大企業の子会社でないこと

優遇措置Aは、寄附金控除と同じ節税効果になります。個人投資家の所得(給与や自営業から得た所得、不動産賃貸から得た所得などの合計)から、「投資した金額−2,000円」を差し引いて所得税等を計算することができます。
優遇措置Bは、エンジェル税制を活用した投資をした年に、他の株式売却益がある場合、投資の全額をその売却益から控除して所得税等を計算することができます。
対象企業の「新しい事業活動を行っている」という要件ですが、これは設立経過年数によって満たさなければならない要件が分かれていますので会社ごとに確認が必要です。
試験研究比率、従業者の数、売り上げ成長率、外部株主の数などの要素があります。
なおエンジェル税制では、投資先の株式を売却した年に損失が生じた場合、その損失を3年間繰り越すことができます。
これは通常、非上場株式では認められない措置ですので、エンジェル税制の特典といえます。
(ただし優遇税制AまたはBを受けている場合、損失の金額は調整されます)

エンジェル税制の主な改正点

大綱によるとエンジェル税制の改正点は、要件が緩和された部分とそうでない部分があります。ただし、適用期間が明確でないため、適用の際は、必ずエンジェル税制の都道府県の窓口や専門家にご相談ください。

【エンジェル税制の主な改正点】
・対象企業の拡大
優遇税制Aの対象企業の要件が、設立5年未満(旧:3年未満)に拡大される予定です。
・上限額が800万円に
優遇税制Aの上限額が、1,000万円から800万円に引き下げとなる予定です。ただし、総所得金額の40%という上限はそのままですので、改正後は800万円とのいずれか低い方が控除限度額になります。
・クラウドファンディング事業者への確認も可能に
エンジェル税制を適用するまでの流れとして、これまでは、まず投資を受ける会社側から「都道府県」に対してエンジェル税制の要件の確認申請を行い、税制適格の確認書の交付を受け、それを受け取った個人投資家が確定申告によって優遇税制を受けるという流れが主でした。
しかし、近年クラウドファンディングによる資金調達手段が行われるようになったことを受けて、都道府県の他に、経済産業大臣の認定を受けたクラウドファンディング事業者も確認事務を行うことができるようになる予定です。
なおこの他に、認定を受けたファンドも優遇措置Aの確認事務を行えるようになります。(Bはもともと可能)

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