年末調整の準備を秋から始める理由とは?
年末年始は、税務に関するスケジュールが目白押しの時期です。
特に、個人事業主と12月決算の法人は、確定申告の準備を行わなければなりません。
消費税の課税事業者であれば、消費税の申告も加わります。
経理部門にとって1年で最も忙しい時期ですから、最初から「残業やむなし」と考えている事業所もあるのではないでしょうか。
しかしながら、働き方改革による時間外労働の上限規制の開始が目前に迫る中、どの部門も業務の効率化が求められるところです。
そこで今回は、「秋から始める年末調整」のテーマをお届けいたします。
年末調整は、最後の給与、あるいは賞与額が確定してから行われることが多く、年末の負担が大きい業務の1つです。
しかもミスが起こると、労使間の関係悪化にも繋がってしまうことから、とても責任のある業務といえます。
さらに2018年からは、新しくなった配偶者控除・配偶者特別控除がスタートします。
これにより、新しく控除対象となる職員も出てくると思いますので、会社側から早めに職員に周知しておく必要があります。
普段以上の多忙と混乱が予想される2018年の年末調整をスムーズに行うために、今回は、秋から始める年末調整の準備をお伝えします。
年末調整の手順をおさらいしよう
まず年末調整の手順をおさらいしておきましょう。
年末調整とは
年末調整とは、各職員の所得税の確定額と、その給与から天引き(源泉徴収)した所得税の差額を調整して納税する制度になります。
簡単に言うと、職員の確定申告を職場が代行する制度です。
家族構成などが変わらなければ必然的に還付金が生じることが多いのですが、中には扶養親族が減少するなどの理由で、税金を追加徴収するケースもあります。
年末調整の手順
年末調整の主な手順は、下記の6ステップです。
@1年間の給与のうち、課税支給額から各職員の給与所得額を計算する
A扶養控除額を計算する
B配偶者控除・配偶者特別控除を計算する
C保険料控除額を計算する
D@からA、B、Cを差し引き、税額を計算する
EDから住宅ローン控除を控除する
さて、この中で秋から準備ができる部分はどこでしょうか?
答えはD以外の全部です。
確認や書類集めを、経理の手が空いている秋に行っておけば、12月に最終給与が確定した時点で、スムーズに年末調整を終えることができます。
秋から始める年末調整の準備
それでは、具体的に秋から始められる年末調整の準備を解説します。
非課税通勤手当の見直し(ステップ@)
年末調整の対象となるのは、課税支給額に限られます。
したがって、非課税の通勤手当は対象となりません。
通勤手当の非課税額は、交通手段、通勤距離に応じて変化します。
間違いが起こりやすいのが、年の途中で転居した職員の非課税通勤手当の額です。
例えば、公共交通機関を使用し、月7,500円の定期券代を支払っている職員の場合、その全額を非課税通勤手当として受給することが可能です。
ところが、この職員が転居して、通勤距離が片道5キロメートルのマイカー通勤に変わり、社内規程で月5,000円が支給され始めたとします。
マイカー通勤で片道10キロ未満の場合、非課税通勤手当は月4,200円が上限です。
したがって、差額の月800円は、この職員の年末調整の対象になります。
支給額を変更していないミスは、万が一、経理側で見落としたとしても、最終的には職員からの指摘で発覚し、大事に至らないことが多いです。
しかし非課税金額のミスは、最初の1回の間違いを経理側で見落とすと、その後はなかなか発覚しにくくなります。
非課税通勤手当でミスをすると、後のステップAからEが合っていても計算は全てパーです。そこで年末調整を迎える前に、年の途中で通勤手段や通勤距離が変わっている職員がいれば、非課税通勤手当が正しく処理されているか、一度時間をとって確認して下さい。
非課税通勤手当が現行法でいくらかは、こちらから確認できます。
国税庁 「No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2585.htm
国税庁 「No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2582.htm
扶養控除申告書を提出してもらう(ステップA)
扶養控除申告書とは、職員が扶養している親族等の氏名や年齢、マイナンバーなどを確認するための書類です。
通常は年の始めに提出してもらいますが、年末調整では12月31日の扶養状況が基準となるため、年の途中で変更があった場合はそちらが優先されます。
したがって年末に近くなると、職員の扶養状況に変更がないか、確認しなければなりません。
確認方法としておすすめなのが、10月〜11月に扶養控除申告書の様式を職員に配り、翌年分(つまり2019年分)として作成してもらうことです。
これにより、12月31日時点の扶養親族の見込み状況を把握すると同時に、翌年の給与計算の準備まで行うことができます。早期に配る理由は、扶養控除申告書にはマイナンバーや所得の見積額など、自宅で調べなければ記載できない項目が多いためです。
こちらは、平成30年の様式ですが、参考として下さい。
平成30年分 給与所得者の扶養控除等申告書
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/h30_01.pdf
#配偶者控除・配偶者特別控除の改正点について全体説明を行う(ステップB)
配偶者控除・配偶者特別控除は、2018年から金額が変わります。
配偶者控除とは、年間所得が38万円(パート収入なら年収103万円)以下の配偶者を扶養している場合、その職員が38万円(70歳以上であれば48万円)の所得控除を受けられる制度です。
一方、配偶者特別控除とは、所得が38万円を超える配偶者を扶養する場合の所得控除です。配偶者の所得金額に応じて、職員の所得控除額は段階的に引き下げられますが、上限までは控除が受けられます。この上限は、2017年まで76万円(パート収入なら141万円)未満でした。
2018年からの改正点で職員に周知しておくべきポイントを簡単にまとめると以下のAとBの2つです。
A:配偶者特別控除を受けることができる配偶者の所得制限が47万円アップしたこと
B:所得900万円を超える職員は、配偶者控除・配偶者特別控除ともにその控除額が少なくなること
Aにより、配偶者特別控除の対象となる配偶者のパート収入の上限は、これまで141万円でしたが、2018年からは188万円まで引き上げられました。
また、下記の表をご覧いただきたいのですが、配偶者特別控除のうちパート収入150万円までは、配偶者控除と同額の38万円の控除が受けられるという配偶者特別控除内での控除額の変更も行われています。
制度の上では、配偶者控除の上限はパート収入103万円で据え置きですが、38万円の所得控除が受けられる対象は広がったというわけです。
具体的には下記の表をご覧下さい。
<配偶者(70歳未満)を扶養する職員(所得900万円以下)の配偶者控除・配偶者特別控除の金額(単位:円)>
配偶者の年間所得金額 | 職員(所得900万円以下)の所得控除額 | ||
所得金額 | パート収入とした場合 | ||
配 偶 者 控 除 |
38万円以下 | 103万円以下 | 38万円 |
配 偶 者 特 別 控 除 額 |
38万円超〜85万円以下 | 103万円超〜150万円以下 | 38万円 |
85万円超〜90万以下 | 150万円超〜155万円以下 | 36万円 | |
90万円超〜95万円以下 | 155万円超〜160万円以下 | 31万円 | |
95万円超〜100万円以下 | 160万円超え〜165万円以下 | 26万円 | |
100万円超〜105万円以下 | 165万円超〜170万円以下 | 21万円 | |
105万円超〜110万円以下 | 170万円超〜175万円以下 | 16万円 | |
110万円超〜115万円以下 | 175万円超〜180万円以下 | 11万円 | |
115万円超〜120万円以下 | 180万円超〜185万円以下 | 6万円 | |
120万円超〜123万円以下 | 185万円超〜188万円以下 | 3万円 |
Bは、職員の給与水準に合わせて説明の要否を判断して下さい。なお、所得900万円以下とは、給与収入にすると年収1,120万以下です。これを超える職員がいなければ必要のない説明となります。
平成30年分給与所得者の配偶者控除等申告書
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/h30_71.pdf
保険料控除申告書の提出(ステップC)
保険料控除とは、職員が支払った所定の生命保険、医療保険、個人年金、地震保険の保険料のうち、決められた金額を所得控除とする制度です。
どの保険が保険料控除の対象となるかは、毎年9月ころには生命保険会社から契約者宛てに送付される「保険料控除通知書」で判断できます。
ところが、この保険料控除通知書を失くしてしまうと、再発行手続きを行わなければ年末調整はできません。
人間ですから、誰にでも紛失ミスは起こります。
したがって、保険料控除申告書の様式も10月、11月ころには扶養控除申告書と同時に職員に配り、早めに通知書とともに提出してもらいましょう。
平成30年分給与所得者の保険料控除申告書
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/h30_05.pdf
住宅借入金当特別控除申告書を提出してもらう(ステップE)
住宅ローン控除の金額を計算するための申告書です。
住宅ローン控除は、初年度のみ確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整で対応できます。9月か10月ころに金融機関からローン残高とともに年末調整のための様式である「住宅借入金当特別控除申告書」が送られてきます。
ところが、住宅借入金当特別控除申告書の書き方は非常に複雑です。
普段数字に慣れていない職員の場合、見ただけでやる気を喪失するでしょう。そうなると、12月の多忙な時期になってから、書き方がわからないと経理に持ち込む職員が現れ始めます。そうならないよう経理の手が空いている10月〜11月のうちに対象の職員に声をかけて、書き方の指導を始めることがポイントです。
書き方のおさらいは、こちらから行えます。
国税庁 住宅借入金等特別控除申告書の受理と内容の確認(13頁参照)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2016/pdf/37-51.pdf
秋からはじめる年末調整の準備 まとめ
秋からできる年末調整の準備をお伝えしました。
年末年始の多忙な業務に備えて、今年の年末調整の準備はぜひ秋から始めてみて下さい!