国税庁がホームページなどで公表している税の取り扱いなどに関する質疑応答集を更新しました。新しく盛り込まれたQ&Aの中でも、所得税の医療費控除関連の項目がクローズアップされています。今年もケガや病気で高額な医療費を支払った人が多くいたことが推測されます。
国税庁が公表している質疑応答集で、今回新たに盛り込まれた項目数は所得税5個、源泉所得税1個、譲渡所得税1個、相続税・贈与税3個、法人税12個、消費税5個、印紙税2個で計29項目です。このなかで、やはり納税者が最も多い所得税が注目されています。特にケガや病気で高額な医療費を払った人が関心を寄せているのが、医療費控除に関する項目です。
例えば、「父親の控除対象配偶者である母親の医療費を子供が負担した場合」という項目が今回新たに加えられました。その内容を見てみると、「父親の控除対象配偶者である母親の医療費を子供が負担した場合は、その子供が当該医療費について医療費控除の適用を受けることができますか」との質問に対して、「母親と子供が生計を一にしている場合は、医療費を実際に支払った子供の医療費控除の対象となります」と回答。
さらに、「医療費控除は、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払った場合に適用することとされており(所得税法第73条第1項)、その親族が自己の控除対象配偶者や控除対象扶養親族であるかどうかは問わないこととされています。したがって、母親と子供が生計を一にしているのであれば、子供が支払った母親の医療費は、その子供の医療費控除の対象となります」と解説しています。
このQ&Aも、高齢化社会と高齢者の就職難という社会現象を反映した税の取り扱いといえます。
11月26日、自民党税制調査会が開かれ、各委員会から法人税の実効税率の引き下げ幅をさらに拡大し、来年度に20%台に引き下げることを要望する意見が相次ぎました。これに危機感を覚えているのが東京都です。
じつは、東京都では11月16日に桝添要一都知事が、東京都税制調査会(都税調、都知事の税制諮問機関)から地方法人特別税と地方法人税の二税の撤廃を柱とする今年度の答申を受け取ったばかりでした。
その答申には、国が平成 27 年度与党税制改正大綱で「平成27年度を初年度とし、以後数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指す」などとしている点について、「国の政策が、地方法人課税へ及ぼす影響懸念される。 地方法人課税は行政サービスを受ける法人に課税され、他の基幹税とともに地方財政需要を賄っていることに鑑みると、国による政策の影響については、国の責任で対応すべきである」とする提言が行なわれています。
地方法人特別税とは、平成20年度税制改正において地方税の法人事業税の一部を分離して国税化されたものです。法人事業税の税収割合の高い東京都などは、国に払う地方法人特別税も自ずと多くなります。
一方、地方法人税は平成26年度に創設された国税です。課税標準法人税額に4.4%の税率で課税される税金とあって、国にとっては法人税を納める企業が集中している東京都が、いわばドル箱となっています。そこで、同答申ではこの二税について「限られた税収を奪い合う地方間の水平調整に過ぎず、地方税収全体のパイの拡大にはつながらない」と批判。また、「応益負担という地方税の原則を歪め地方自治に逆行する」などとして、速やかに撤廃して地方税として復元することを求めています。
この二税の撤廃が議論されずに、法人実効税率の引き下げだけが決まってしまうと、撤廃どころか、「国税の法人税をいくらか引き下げるから、地方税の法人事業税も同じくらい引き下げよう」という痛み分けの議論に発展しかねないわけです。
日本税理士会連合会(日税連)の神津信一会長が、消費税の軽減税率導入に反対するコメントを発表しました。神津会長は「単一税率制度を維持すべきことを強く主張し、低所得者対策としては給付付き税額控除制度の導入を検討するよう求める」としています。
10月14日、安倍首相が自民党税制調査会の宮沢会長に対して「商工業者への配慮をしつつ、平成29年4月の消費税率引き上げ時に軽減税率を導入する方向で検討するように」と指示しました。これを受け、与党税制協議会が消費税の軽減税率を適用する対象品目や区分経理の仕方、財源等について具体的な検討を始めたことから、税の専門家団体としての考えを神津会長が表明したわけです。
神津会長は、来年4月の消費税率の引き上げについて「少子化・高齢化の進展に伴う社会保障費の増加に対応する財源について、現役世代にこれ以上の負担は求められないこと等から決定されたものである」と説明。現行の単一税率から複数税率にする場合に想定される問題として「対象品目の公平な選定や区分経理の方法が困難であること、事業者の事務負担が増加すること、低所得者対策としては非効率であること、財政再建が損なわれ社会保障給付の抑制が必要となること、簡易課税制度が複雑な制度となってしまうこと」などを列挙しています。
そして、日税連が毎年政府に対して税制の問題点を提示している税制改正建議書の中で「(消費税は)単一税率制度を維持すべきことを強く主張し、低所得者対策としては給付付き税額控除制度の導入を検討するよう求めてきました」として、今後も、「税務の専門家団体として、消費税の複数税率制度が内包する欠陥や実現した場合に発生する問題点を明らかにしつつ、消費税制を含めたあるべき税制の全体像について意見表明を行ってまいります」と複数税率導入に反対していく構えをみせています。
このほど、今年6月までの1年間に租税条約等に基づいて国税庁が外国と情報交換を行った実績が明らかになりました。インターネットを使った国際取引の増加にともない、軽課税国に現金などを移転する動きが盛んになっていることが浮き彫りとなっています。
国税庁のまとめによると、租税条約に基づいて個別の納税者の情報提供を相手国に要請する「要請に基づく情報交換」で、国税庁が外国へ要請した件数は526件(前年比26.9ポイント減)でした。その7割以上がアジア・オセアニア地域に対するものだったとしています。逆に、外国から国税庁に要請のあった件数は125件(同17.9ポイント増)でした。
この要請に基づく情報交換によって、国税庁は「外国税務当局から、海外法人の決算書及び申告書、登記情報、契約書、インボイス、銀行預金口座、海外法人における経理処理が分かる資料のほか、外国税務当局の調査担当者が取引担当者に直接ヒアリングした内容などの情報が提供されている」と説明しています。
一方、自国の納税者に対する調査等の際に入手した情報で外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供する「自発的情報交換」では、国税庁が外国へ提供したものは317件(同95.4ポイント減)でしたが、外国から国税庁が受け取ったものは1,258件(同58.9ポイント減)となっています。脱税行為や租税回避行為などが想定される情報については、国際的な協力の下で自発的な情報交換が盛んに行われていることが分かるデータと言えます。
さらに、法定調書から把握した非居住者等への支払い(配当、不動産所得、無形資産の使用料、給与・報酬、キャピタルゲイン等)に関する情報を、支払国の税務当局から受領国の税務当局へ一括して送付する「自動的情報交換」については、国税庁が外国へ提供したものは約13万7千件(同8.7ポイント増)でした。そして、外国から国税庁が受け取ったものは約13万2千件(同0.8ポイント減)となっています。
インターネットを利用した国際的な取引が盛んになってきていることや、相続税の課税強化を受けて資産を海外に移転する資産家が増えていること、企業がタックスヘイブンに利益を移して法人税の課税逃れを行うケースも少なくないことから、他国との情報交換が国税庁にとって重要な調査資料となっていることが伺えます。
基礎控除額を約半減するという相続税の増税により、一挙に申告対象者が増えたことから、このほど、国税庁が「相続税の申告書を作成するときに誤りやすい項目」について、事例形式で紹介したページを同庁のホームページにアップしました。
今年1月1日以後に発生した相続については、これまで(5千万円+1千万円×法定相続人の数)だった基礎控除額が、(3千万円+600万円×法定相続人の数)に引き下げられました。これにより、東京都23区内にちょっとした土地建物を持つ人ならば、相続税が課税されることとなり、いま多くの税理士が「申告書の作成は必ず税理士に相談してください」と呼びかけています。
しかし、相続税は現金一括納付が原則となっていることから、相続財産が不動産ばかりで現金が少ないという人などは、税理士報酬まで払えないことから、自力で申告書を作成せざるを得ません。国税庁では全税務署に相談窓口を設けているわけですが、実際に提出された申告書を見てみると「税法の適用ミスなどが必ずある」(税務署資産税課)と言われています。
そこで、このほど国税庁では、「相続税の申告書を作成するときに誤りやすい項目」について、事例形式で紹介したページを同庁のホームページにアップしました。具体的には、「被相続人の一親等の血族以外の人が相続財産を取得した場合には、その人の相続税額の2割に相当する金額を相続税額に加算しなければならないのに、加算していなかった」という事例や、「死亡したときに支給されていなかった年金を遺族が請求し支給を受けたわけだが、その支給金額は遺族の一時所得(所得税)の対象となるのに、相続税が課税される相続財産の中に含めていた」という事例など、全部で14事例を紹介しています。
国税庁が平成27年分の所得税の確定申告に係る振替納税の振替日を公表しました。今回も、申告納付期限から約1カ月後に銀行口座などから税金が引き落とされます。
平成27年分の申告所得税と復興特別所得税の申告納付期限は平成28年3月15日で、個人事業者の平成27年分の消費税及び地方消費税の申告納付期限は平成28年3月31日となっています。
ところが、個人事業者の多くが申告書の作成に気を取られて、納付期限間際にあわてて税額分のお金を用意するといわれています。そこで、国税庁が勧めているのが振替納税です。振替納税は、電気代やガス代など公共料金の自動振替と同じような仕組みになっていて、預貯金残額を確認しておくだけで、金融機関や税務署などの窓口まで出向くことなくその預金口座から自動的に税金が引き落とされるというものです。しかも、利用開始の手続きを一度行えば、次回以降の納付も振替納税となります。
納税者にとって振替納税で得られるメリットは、何と言っても銀行口座からの引き去りが申告納付期限から約1カ月遅くなるということ。仮に、所得税の納付が1カ月遅れてしまうと原則年7.3%で延滞税がかかるので、その延滞税相当額が振替納税を選択することで浮く形になるわけです。ちなみに、バブル景気のときなどは、振替納税を選択して振替日までの1カ月間、納付税額全額を高金利商品で運用していた人もいたと言われています。
このほど、国税庁が公表した平成27年確定申告分の振替納付日は、申告所得税及び復興特別所得税については平成28年4月20日、個人事業者の消費税及び地方消費税については平成28年4月25日となっています。
なお、所得税について予定納税制度の適用がある場合には、予定納税の第1期と第2期の振替納付日は法定納期限と同じ日となっているので注意が必要です。
個人が土地や建物を売却するときに譲渡所得税の節税手法として使われるのが、固定資産の交換特例です。ところが、土地とその土地の上にある建物は一対の資産として交換特例が適用できると思っている人がいます。このほど、東京国税局が同じような勘違いをしている納税者からの質問を正したことが話題となっています。
固定資産の交換特例とは、固定資産である土地や建物など同じ種類の資産を他の者と物々交換したときに譲渡がなかったものとされる制度です。ただ、土地などを交換するとき、道路付けなどで必ずどちらかの立地条件が良いもので、同額となるケースはほぼありません。そこで、評価額が低い土地を手放す側が、評価額が高い土地を手放す側に、その評価額の差額を支払うことで交換取引は成立します。
なお、交換の相手方から交換差金を受け取ったときは、その交換差金に対しては譲渡所得として所得税がかかることになっています。しかも、交換差金の額が交換で譲り渡す資産と譲り受ける資産とのいずれか高い方の価額の20%を超えているときは、交換した資産全体について固定資産の交換の特例は適用できないことになっています。
そのため、このほど東京国税局に問合せをした納税者は交換差金の支払を避けるため、土地だけでなく、その土地の上にある建物を一対とみなして譲り渡したうえで、交換特例を適用しようと考えました。しかも、国税庁が公表している「一つの資産のうち一部を交換、他の部分を売買とした場合は、その売買代金が交換差金になる」という取り扱いの活用を考えついたわけです。
例えば、譲り渡す土地の評価額が3,900万円で、譲り受ける土地の評価額が5,000万円だとします。そして、譲り渡す土地の上の建物の評価額が1,000万円だった場合は、その建物を売却すれば、今度は1,000万円の交換差金が交換相手からもらえるわけです。また、土地と建物を一の資産とみなすことで交換特例を適用する場合の交換差金の限度額をクリアーすることができます。
こうしたやり方に対して、東京国税局は「取り扱いで示している『一の資産』とは、所得税法第58条第1項各号に掲げる資産の種類の区分ごとの資産をいう」として、土地とその土地の上の建物を一の資産とみなしてはならないという見解を示しています。よって、前出の事例では固定資産の交換特例が適用できなくなるわけです。
このほど、会計検査院が2014年度の国の収入支出について決算検査報告書をまとめました。それによると、税金の無駄遣いなどとして指摘された金額は1568億円にのぼりましたが、注目すべきは、税務署のミスにより消費税の徴収漏れが明らかとなっている点です。
会計検査院では毎年、憲法の規定により国の歳入歳出や政府関係機関等の収入支出の決算を検査し、内閣に対して報告しなければならないことになっています。
今回その平成26年度の検査報告が行なわれたわけですが、不適正な会計や経理、税金の無駄遣いとして指摘された件数は570件(前年度比25件減)で、指摘金額の総額は1,568億6,701万円(同比約1,263億円減)でした。
不当事項として、もっとも不当な支出が多かったのは、(独法)日本スポーツ振興センターの49億3985万円でした。2番目は厚生労働省の40億7194万円で、3番目が総務省の13億5682万円となっています。
注目すべきは、全国の税務署が税金の徴収をしっかり行っているのかどうかです。報告書によると、38税務署において、納税者72人について徴収不足が72事項で、総額2億3,106万8,342円もあり、また、過大徴収は2事項で、総額4,471万7千円あったとしています。
税目の別では、やはり消費税の徴収不足です。消費税の納税スキームは、一般消費者が払った消費税を事業者が受け取り、それを税務署に納めるという預り金的な性格を持っているからです。今回の会計検査院の報告書によると、消費税の徴収不足だったのは6件で、総額728万7千円となりました。前年度よりも約91万7千円増加しています。
会計検査院が指摘した「租税の徴収過不足が発生する主な原因」を見てみると、納税者が申告書に記載した税額等に誤りがあったにもかかわらず、それを見過ごしたものや、法令等の適用の検討が十分でないケースがありました。また、課税資料の収集・活用が的確でないものもあったとしています。依然として消費税を確実に徴収できていない実態が明らかとなっています。
全国の税務署が、昨年7月から今年6月までの間(平成26事務年度)に行った個人事業者に対する消費税調査の結果を国税庁がまとめました。そこには、まさに消費税率引き上げにともない、当局によって厳しい調査が展開されたことが浮き彫りとなっています。
全国の税務署では消費税調査を行うに当たり、高額・悪質な不正計算が見込まれるものを対象に深度ある実地調査(特別調査・一般調査)を優先して実施しています。また、事前に収集した情報と確定申告書とを照合して、短期間で申告漏れ所得等を把握する着眼調査も実施しています。
しかも、個人事業者の消費税及び地方消費税の調査については、課税事業者を対象に、原則としては所得税の調査と同時に実施することになっていますが、消費税のみが無申告である納税者に対しては厳しい調査が行われています。
今回、国税庁がまとめた消費税の実地調査の件数は、特別調査・一般調査が2万8千件(前事務年度2万5千件、対事務年度比12%増加)で、着眼調査は8千件(前年度7千件、同比14.3%増加)でした。電話を使って尋ねる簡易な接触は5万件(前年度4万4千件、同比13.6%増加)とされています。
これらの調査等の合計件数は8万6千件(前事度7万6千件、同比13.1%増加)で、そのうち申告漏れ等の非違があった件数は5万9千件(前年度5万2千件、同比13.5%増加)となっています。
一方、追徴税額を見てみると、特別調査・一般調査によるものは168億円(前年度155億円、同比8.4%増加)で、着眼調査によるものは18億円(前事務年度14億円、28.6%増加)でした。そして、簡易な接触によるものは47億円(前年度40億円、17.5%増加)となっていて、合計は233億円(前年度209億円)でした。
着眼調査によるものが前事務年度比28.6%も増加した点を見ても、国税当局が消費税の税率8%を周知徹底しようとしていることが伺える数値と言えるでしょう。
日本税理士会連合会(日税連)の神津信一会長がこのほど、同連合会が有識者で組織する税制審議会に対し、中小法人の範囲の定め方とその税制の在り方について諮問を行いました。
同税制審議会は、学識経験者と税理士によって構成される日本税理士会連合会会長の諮問機関です。同審議会では、単年度ごとに日税連会長から税制並びに税務行政全般について問題点が諮問という形で指摘され、それについて調査・審議したうえで答申してきました。そして、同答申は、日本税理士会連合会が毎年関係省庁に提出する税制改正建議に反映されています。
過去に日税連会長が行った諮問の内容を見てみると、平成26年度は「給与所得と公的年金等所得に対する課税のあり方」が、そして、平成25年度は「贈与税の機能と資産課税における役割」がテーマとして掲げられ、検討が行われました。
今回、日税連会長が行った諮問内容は「中小法人の範囲と税制のあり方について」と題するもので、神津会長は「中小法人の実態が大法人に近いものから個人事業主に近いものまで区々であり、そうした実態が存在しながら資本金基準のみで大法人と中小法人を区分し、それぞれ異なる課税上の措置を講じている」と現行の法人税制の問題点を指摘。その上で、「平成 27 年からの法人税改革の動向を踏まえ、中小法人の範囲をどのように定めるのが適当か、また、中小法人に対する課税はどうあるべきか」と述べて、同審議会に意見を仰いでいます。
なお、今回の諮問に対する答申は、来年3月頃行われる予定です。