AIを活用して調査対象を選定する税務調査が、所得税や相続税といった個人課税にも広がっています。
国税庁が調査対象の選別にAIを本格導入したのは、令和4年度です。過去の申告データ等を学習させたAIに「申告漏れの可能性が高い納税者」を探させ、その結果を参考に調査対象を選別するものです。当初は中小法人(資本金1億円未満)を主な対象としており、令和4・5事務年度に実施された法人に対する税務調査では、中小法人に対する追徴税額のうち7〜8割がAI選定に基づく追徴であったとされています。
AIによる対象選定は、個人事業主などを対象とした所得税の調査にも広がりました。
令和5事務年度の所得税における、実地調査と簡易な接触(文書や電話連絡や税務署での面接などによる調査)を合わせた調査結果によれば、申告漏れ所得は9,964億円、その追徴税額は1,398億円であり、過去最高を記録しています。
これについて国税庁は、AI活用による調査対象の選定などにより、効率的に調査を行った結果であると発表しています。
事務年度 | 令和元年 (R1.7〜R2.6) |
令和2 (R2.7〜R3.6) |
令和3 (R3.7〜R4.6) |
令和4 (R4.7〜R5.6) |
令和5 (R5.7〜R6.6) |
実地調査件数 | 430,923 | 502,298 | 599,747 | 637,823 | 605,077 |
非違件数 | 262,877 | 279,295 | 317,189 | 338,268 | 311,264 |
申告漏れ所得 | 7,885億円 (183万円) |
5,577億円 (111万円) |
7,202億円 (120万円) |
9,041億円 (142万円) |
9,964億円 (165万円) |
追徴税額 | 1,132億円 (26万円) |
732億円 (15万円) |
1,058億円 (18万円) |
1,368億円 (21万円) |
1,398億円 (23万円) |
なお、1件あたりの申告漏れ所得が高額な業種は、以下のとおりです。
事務年度 | 令和元 | 令和2 | 令和3 | 令和4 | 令和5 |
1 | 風俗業 | プログラマー | 経営コンサルタント | 経営コンサルタント | 経営コンサルタント |
2 | 経営コンサルタント | 畜産農業(肉用牛) | システムエンジニア | くず金卸売業 | ホステス、ホスト |
3 | キャバクラ | 内科医 | ブリーダー | ブリーダー | コンテンツ配信 |
4 | 太陽光発電 | キャバクラ | 商工業デザイナー | 焼肉 | くず金卸売業 |
5 | システムエンジニア | 太陽光発電 | 不動産代理仲介 | タイル工事 | ブリーダー |
6 | 土木工事 | 建築士 | 外構工事 | 冷暖房設備工事 | 焼き鳥 |
7 | ダンプ運送 | 経営コンサルタント | 型枠工事 | 鉄骨、鉄筋工事 | 太陽光発電 |
8 | タイル工事 | 小売業・犬 | 機械部品受託加工 | 太陽光発電 | 内科医 |
9 | 冷暖房設備工事 | 不動産代理仲介 | 一般貨物自動車運送 | バー | スナック |
10 | 清掃業 | 商工業デザイナー | 司法書士、行政書士 | 電気通信工事 | 西洋料理 |
そして、今年7月より始まる令和7事務年度の調査からは、相続税の調査においてもAI活用が導入されます。これまでの相続税の申告内容等を学習させたAIに、申告漏れの可能性をスコアで示させ、調査対象を選別するものです。令和5年以降に生じた相続からがAI選定の対象になる見通しとなります。
相続税の例年の調査件数は、法人税や所得税ほど多くありません。実地調査と簡易な接触による調査を合わせても、一年度で行われる調査は3万件未満です。しかし、その非違割合(何らかの誤りなどが見つかった割合)は例年8割を超えており、これまでも高い精度で行われてきました。AIの導入で調査対象の選別が効率化されることにより、この数字がどう変化するのか、注目が集まります。
税務調査の対象となった場合、税理士へご相談いただくことで、事実関係の整理や、必要に応じて修正申告など対応の検討が可能になります。不安を感じたときは、早めにご相談ください。
法人に対する税務調査は、通常業務に多大な影響を及ぼします。今回は、国税庁の最新資料をもとに、法人調査の件数の推移や対象になりやすい業種など、近年の動向をまとめます。
かつて年間10万件近く実施されていた、法人に対する法人税・消費税の実地調査件数は、コロナ禍で一時2.5万件にまで減少し、その後、令和4年事務年度には6.2万件まで増加しました。 ここから従前の水準まで増加の一途をたどるかと思いきや、昨年に公開された令和5事務年度の実地調査件数は5.9万件で、前年度から微減しています。その一方で、追徴税額は法人税と消費税を合わせて3,197億円(源泉所得税を合わせると3,572億円)となり、直近10年で2番目の高水準でした。AI活用など、調査対象を選別する精度の向上がうかがえます。
事務年度 | 令和元年(R1.7〜R2.6) | 令和2(R2.7〜R3.6) | 令和3(R3.7〜R4.6) | 令和4(R4.7〜R5.6) | 令和5(R5.7〜R6.6) |
実地調査件数 | 76千件 | 25千件 | 41千件 | 62千件 | 59千件 |
追徴税額 | 2,367億円 | 1,936億円 | 2,307億円 | 3,225億円 | 3,197億円 |
調査1件あたりの追徴税額 | 3,135千円 | 7,806千円 | 5,701千円 | 5,241千円 | 5,497千円 |
上記は実地での税務調査ですが、それ以外の方法による税務調査も行われています。 このうち「簡易な接触」とは、書面や電話での連絡、あるいは税務署での面接により実施される調査になります。疑問のある申告内容を、こうした簡易な方法で確認し、納税者に自発的に見直しを促すものです。 「簡易な接触」の件数は、近年では実地調査と同程度で推移しています。 1件あたりの申告漏れや追徴税額は、実地調査に比べると少なめですが、令和5年事務年度における申告漏れ所得金額は過去最高となっており、こちらも精度の向上がうかがえます。
事務年度 | 令和元年 (R1.7〜R2.6) |
令和2 (R2.7〜R3.6) |
令和3 (R3.7〜R4.6) |
令和4 (R4.7〜R5.6) |
令和5 (R5.7〜R6.6) |
件数 | 44千件 | 68千件 | 67千件 | 66千件 | 70千件 |
申告漏れ所得金額 | 42億円 | 76億円 | 88億円 | 78億円 | 92億円 |
追徴税額 | 27億円 | 62億円 | 104億円 | 71億円 | 92億円 |
【補足】 ・調査期間:各年の2月1日〜翌年1月末日までの間に事業年度が終了した法人を対象に、各年7月〜翌年6月までの間に実施した調査が集計対象になっています。 ・追徴税額:地方法人税や地方消費税、加算税も含みます。
法人に対する税務調査では、特定の業種における不正の発見割合が高く、こうした業種は今後も重点的に調査される可能性があります。以下は、実際に不正発見割合の高かった業種の上位です。
事務年度 | 令和2 | 令和3 | 令和4 | 令和5 |
1 | バー・クラブ | その他の道路貨物運送 | その他の飲食 | バー・クラブ |
2 | 外国料理 | 医療保険 | 廃業物処理 | その他の飲食 |
3 | 美容 | 職別土木建築工事 | 中古品小売 | 外国料理 |
4 | 医療保険 | 土木工事 | 土木工事 | 土木工事 |
5 | 生鮮魚介そう卸売 | その他の飲食 | 職別土木建築工事 | 美容 |
6 | 一般土木建築工事 | 化粧品小売 | 医療保険 | 一般土木建築工事 |
7 | 職別土木建築工事 | 美容 | 一般土木建築工事 | 職別土木建築工事 |
8 | 中古品小売 | 機械修理 | 管工事 | 廃業物処理 |
9 | 医療関連サービス | 一般土木建築工事 | 自動車、自転車小売 | 船舶 |
10 | 土木工事 | 貨物自動車運送 | 美容 | その他の道路貨物運送 |
上記のとおり、飲食・建築土木・医療・美容関連は、不正発見割合が高い傾向にあります。令和5事務年度では、バー・クラブと外国料理が3年ぶりに上位となりました。いずれも1件あたりの不正申告漏れ額は増加しており、特に外国料理は約2.8倍に増加しています。
事務年度 | 令和2 | 令和5 |
バー・クラブ | 23,857千円 | 29,851千円 |
外国料理 | 14,323千円 | 39,636千円 |