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脱税事案を調査する「査察」とは?税務調査との違いや情報収集の方法を知ろう

■査察とは?

査察とは、国税局の調査査察部が行う調査のこと(いわゆるマルサのこと)です。
隠蔽工作などが疑われる悪質な脱税事案や高額な脱税事案を対象に、法に基づく強制力で証拠を収集し、刑事告発を行います。

■税務調査と査察の違い

通常行われる税務調査は、税務署が行う調査になります。
税務調査の場合、原則として事前に通知があり、納税者の協力のもと任意で進められます。そして、税務調査において申告漏れなどが発覚すると、多くの場合は納税者が修正申告を行い、それに伴う不足の税金や加算税、延滞税を納めて終わりとなります。
一方、査察の場合は、国税局の調査査察部が行う調査のことであり、裁判所の令状に基づく捜索差押など強制力のある調査が行われることが一般的です。そして、違反が発覚した際は、加算税や延滞税だけでなく、その約7割が検察庁に告発され、懲役や罰金といった刑罰を科すところまでの刑事責任を追及されることになります。
ちなみに、査察の告発に基づき起訴された場合の第一審の有罪率は、ほぼ100%となります。万が一にも査察の対象となった場合、当分は業務どころではなくなってしまうのです。

■査察に入られる目安はある?

以前はよく、脱税額(所得ではなく税額)が1億円以上あると査察の対象になると言われていましたが、近年はこの金額が減少傾向にあるとされています。
令和5年度の査察の調査によって発覚した脱税事案においても、1件あたりの脱税額は8,800万円でした。

■税務調査と査察の件数を比較

次に、通常の税務調査と査察の件数を比べてみましょう。
まず、税務調査(実地調査)の件数は、令和5年事務年度の「法人税・消費税」の調査で5.9万件、「源泉所得税」の調査で6.9万件実施されています。このうち、源泉所得税について違反が発覚した件数は2.2万件(約32%)でした。
これに対し、査察の件数は例年150件ほどです。
ごく限られた状況で実施されているものの、そのうち7割が刑事告発され、近年の第一審判決ではほぼ100%が有罪となっています。

【査察の着手・処理・告発件数、告発率の状況】

着手件数 処理件数 告発件数 告発率
(告発/処理件数)
令和5年度 154 151 101 66.9%
令和4年度 145 139 103 74.1%
令和3年度 116 103 75 72.8%
令和2年度 111 113 83 73.5%
令和元年度 150 165 116 70.3%

【査察事件の一審判決の状況】

  判決件数 有罪件数 有罪率
令和5年度 83 83 100%
令和4年度 61 61 100%
令和3年度 117 117 100%
令和2年度 87 86 98.9%
令和元年度 124 124 100%

(出典)国税庁HP:「査察の概要」

■なぜ査察の告発率・有罪率は高いのか

査察の告発率・有罪率がここまで高い理由の一つに、査察官に与えられた強力な調査権限があります。
国税庁の「査察の概要」によれば、脱税された不正資金が下記のような場所から発見されているそうです。
・棚に置かれた箱の中
・押入れ内の袋の中
・クローゼット内の金庫、バッグ、スーツケースの中
・床下に置かれた袋の中
・階段下収納
・天井裏
・和ダンスに作り込まれた隠し戸の中
・蔵に置かれた木箱
・レンタル収納スペース内のスーツケースの中
・銀行の貸金庫の中
「どうやって捜したのだろう…」と驚くような場所もありますが、このように証拠を徹底的に探すことのできる強い権限が、高い告発率・有罪率につながる要因の一つと考えられます。
さらに、高級車や高級腕時計、暗号資産の購入、不動産への投資、競馬やカジノなどのギャンブル、高級クラブでの遊興費など、不正資金がすでに使われている場合についても、その用途を調べ上げて証拠を収集しています。
なお、通常の税務調査は任意で行われるため、納税者の許可なくクローゼットを開けたり床下を調べたりすることはありません。

■査察はどうやって情報を集めているの?

査察の情報収集は、以下の方法で行われているとされています。
・テレビ
・新聞、雑誌
・インターネット
・投書
・張り込み
・CRS(共通報告基準:Common Reporting Standard)
・財産債務調書、国外財産調書
・税務調査
・捜査機関からの課税通報

●CRSとは
「CRS」とは、OECDにおいて、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準のことです。外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するための情報収集に活用されています。

●財産債務調書、国外財産調書とは
財産債務調書や国外財産調書とは、一定の基準を超える資産の所有者が税務署に提出する書類です。提出すると加算税の軽減などのインセンティブがあります。

●その他
他にも、税務署による日頃の税務調査や、警察など他の捜査機関による課税通報制度から情報を得ることもあります。
いずれにせよ、約7割を告発している実績から考えると、かなり確度の高い情報を事前に集めた上で着手しているといえます。

■査察に告発されやすい業種がある

査察に告発されやすい業種は、不動産業と建設業です。
以下の表は、令和元年度から令和5年度にかけて、告発の多かった業種の一覧になります。いずれの年度においても、不動産業と建設業が上位を占めていることが確認できます。

令和元年度 令和2年度 令和3年度 令和4年度 令和5年度
建設業 19 不動産業 26 建設業 19 建設業 22 不動産業 18
不動産業 19 建設業 15 不動産業 15 不動産業 13 建設業 16
人材派遣 10 クラブ・バー 4 卸売業 4 小売業 12 人材派遣 6
下水道管調査 5 人材派遣 5 小売業 5

■近年の注目事案

最後に、査察による調査対象となった近年の注目事案を確認しておきましょう。
国税庁の「査察の概要」では、消費税の不正還付事案として、架空の免税売上を計上した手口や、国内取引を免税売上に仮装した手口の告発事例が多数紹介されています。
以下、近年の主な事案です。
【令和3年度】
・化粧品や日用品の取引を海外輸出取引に偽装し、消費税の不正な還付申告をした事案。
【令和4年度】
・免税店を利用し、自身が主宰する法人から化粧品等を仕入れたかのように装い、さらにそれを外国人観光客に販売したかのように装い、架空の免税売上を計上した事案。
【令和5年度】
・免税店の許可を受けたコンビニエンスストアにおいて、虚偽のパスポート情報を使用して免税商品を販売したように装い、架空の輸出免税売上を計上した事案。
・令和5年度:同一の高級腕時計のシリアルナンバーや不正入手したパスポートの写しを用いて、架空の課税仕入れや架空の輸出免税売上を計上した事案。
また、新しいビジネスに対しても査察は目を光らせています。令和4年度および5年度では、次の事業が脱税で告発されています。
【令和4年度】
・トレーディングカード販売業者の架空経費計上による脱税事案。
【令和5年度】
・転売やそのノウハウを指南する業者による架空経費計上や売上除外による脱税事案。
・半導体製造工場の架空経費計上による脱税事案。
・ペット需要の高まりを受けたブリーダーの架空経費計上による脱税事案。
・虚偽の経費を計上する脱税スキームを利用した納税者らによる脱税事案。
(脱税請負人が、節税とうたって納税者を広く勧誘していた)

■まとめ

査察は多くの経営者にとって関わることのない話ですが、どのようなルートで情報を収集しているのかについては、意識しておいて損のない知識といえます。
また、万が一にもこうした疑いを向けられることがないよう、特に新しい取引を始めた際には、取引の実態と証憑書類を整理し、処理をクリアにしておくことが大切です。

(参考)国税庁HP:「査察の概要」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/sasatsu/r05_sasatsu.pdf
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/sasatsu/r04_sasatsu.pdf

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