【令和4年度税制改正大綱】賃上げ税制とは

賃上げ税制とは、従業員の給与を前年度から増加させた企業が、その増加額の最大40%(大企業は最大30%)を法人税や所得税から控除できるという制度です。
昨年から報道でよく取り上げられているため、ざっくりとした内容はご存知の方も多いと思います。
賃上げ税制は、今回初めて実施される制度ではなく、現行の「人材確保等促進税制」、「所得拡大税制」を改組するものです。
開始時期は、令和4年4月1日以降に始まる事業年度になります。
今回は、税制改正大綱の内容を中心に、賃上げ税制について解説いたします。
(注意)税制改正大綱の内容は、国会の審議を経て内容が変わることがあります。経済産業省によって5月ころ公表予定とされる、賃上げ税制の詳細な内容もチェックが必要です。

■賃上げ税制の概要

賃上げ税制には、中小企業向けの制度と大企業向けの制度があります。
それぞれの制度では、適用するための要件と、控除できる金額に違いがあります。

  必須要件 控除率 控除率の上乗せ





雇用者全体への給与支給額が
前年度比+2.5%以上
30% 教育訓練費が前年度比
+10%以上で、控除率+10%
雇用者全体への給与支給額が
前年度比+1.5%以上
15%




継続雇用者への給与支給額が
前年度比+4%以上
25% 教育訓練費が前年度比
+20%以上で、控除率+5%
継続雇用者への給与支給額が
前年度比+3%以上
15%

雇用者・継続雇用者の範囲

中小企業向けの要件にある「雇用者全体」とは、従業員全体をいいます。
ここでいう従業員とは、国内の事業所における従業員のことです。
役員やその役員と特殊な関係(親族関係など)にある者は、対象になりません。
個人事業主の場合は、個人事業主と特殊な関係(親族関係など)にある者が対象外となります。
大企業向けの要件にある「継続雇用者」とは、国内の事業所における従業員のうち、前年度と当年度(賃上げ税制を適用する事業年度)のすべての月において給与を支給している従業員であり、かつ、雇用保険の一般被保険者である従業員をいいます。
また、すべての企業は、表の要件に加えて、「雇用者全体への給与支給額が、前年度比で増えていること」という要件も満たさなければなりません。
なぜなら、賃上げ税制の控除額は、中小企業向け・大企業向けともに、雇用者全体の給与の増加額から計算するためです。
中小企業向けの制度を適用する場合は、必須要件を満たせば当然にこの要件も満たしますが、大企業向けの制度を適用する場合は、継続雇用者の給与だけが3%以上アップしていても、全体の給与が上がっていなければ、控除は受けられないことに注意が必要です。

給与の範囲

月給だけでなくボーナスも含みます。
ただし、給与に充てるために他から支払われた金銭は、給与に含めません。
どういった金銭が該当するかはまだ明確ではありませんが、参考までに、現行の人材確保等促進税制や所得拡大税制では、補助金や助成金、出向元法人が負担する給与などが該当するとされています。

追加要件(控除率の上乗せ)について

必須要件に加えて、「教育訓練費」の増加要件も満たすことにより、控除率をアップさせることができます。
「教育訓練費」の内容について、詳しい情報はまだありませんが、経済産業省ホームページで公開されている説明を見る限り、現行の賃上げ税制や所得拡大税制における「教育訓練費」と、大きな差はないようです。

■賃上げ税制の対象事業者

中小企業向け

中小企業向けの賃上げ税制は、青色申告者である中小企業や個人事業主を対象としています。
具体的には、下記の法人や個人事業主のことです。

法人※ ・資本金等の額が1億円以下
・資本金等がない法人は、常時使用する従業員数が1,000人以下
個人事業主 ・常時使用する従業員数が1,000人以下

※大企業から一定以上の出資を受けている法人は、対象外になります。
※前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人も、対象外になります。

大企業向け

大企業向けの賃上げ税制は、大企業向けと称しているものの、正確には、青色申告者であるすべての企業(個人事業主も含む)を対象としています。
中小企業や個人事業主は、大企業向け・中小企業向けのどちらを選んでも構いません。
なお、資本金の額が10億円以上で、かつ、常時使用する従業員数が1,000人以上の企業が賃上げ税制を適用するには、給与の引き上げの方針や取引先との適切な関係構築の方針などをインターネット上で公表し、それを経済産業大臣に届け出る必要があります。

■賃上げ税制の控除額について

控除額の計算方法

賃上げ税制の控除額は、下記の計算式となります。
【計算式】
従業員全体の給与の増加額×控除率

計算例

賃上げ税制では、給与の増加額の最大40%(大企業向けは最大30%)を、法人税(個人事業主は所得税)から控除することができます。
たとえば、法人税の額が1,000万円、従業員全体の給与の増加額が300万円、控除率が40%の場合、120万円を法人税の納税額から控除することができます。

上限は法人税・所得税の2割まで

注意しなければならないのは、控除できる税額が、法人税や所得税の20%までであることです。
必ずしも計算式どおりの金額を、法人税や所得税から控除できるわけではありません。
特に「給与はアップしたものの、売上が思ったほど伸びなかった」という事業年度では、給与を増やした分、経費が増加しますから、法人税や所得税の金額もごくわずかなものとなり、ほとんど控除できないこともあり得ます。

■賃上げ税制の適用開始時期

令和4年4月1日以降に開始する事業年度から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度で適用できます。
【適用対象事業年度の例】
・3月決算法人の場合
令和5年3月期・令和6年3月期の法人税申告
・12月決算法人の場合
令和5年12月期・令和6年12月期の法人税申告
・個人事業主の場合
令和5年分・令和6年分の所得税の確定申告

賃上げ税制開始までは人材確保等促進税制・所得拡大税制を適用

令和4年3月31日以前に開始する事業年度の税務申告では、現行の「人材確保等促進税制」と「所得拡大税制」の適用を検討することになります。
「人材確保等促進税制」は、賃上げ税制とは異なり、「新規雇用者」の給与アップを要件とする税制です。
従業員が、雇用から1年以内に支給された給与が計算対象となります。
現行の2つの税制の適用要件は下記のとおりです。(上乗せ要件の詳細は省略)

適用要件 控除率 控除率の上乗せ
所得拡大税制 雇用者全体への給与が
前年度比+1.5%以上
15% 上乗せ要件を満たせば
控除率+10%
人材確保等促進税制 新規雇用者への給与が
前年度比+2%以上
15% 上乗せ要件を満たせば
控除率+5%

所得拡大税制の対象者は中小企業のみ、人材確保等促進税制はすべての企業となります。(いずれも、個人事業主を含みます)
どちらの要件にもあてはまる中小企業は、どちらか一方を選択して適用します。

■おわりに

給与アップに関する税制は、申告書の作成を税理士に依頼したところ、税理士が適用できることに気が付くケースが多いです。 特に、現行の「人材確保等促進税制」は、今年度、採用人数を増やしたり、新規採用者の初任給を増やしたりしている場合、図らずも適用要件を満たしている可能性があります。 これらの税制を適用するには、法人税や所得税の申告書に、所定の様式を添付するなどの対応が必要ですので、税理士にご相談ください。

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