令和4年1月1日から適用される短期退職手当等とは

令和4年1月1日以降の退職者に支払う退職金のうち、短期退職手当等に該当するものは、源泉徴収税額の計算方法が変わります。

短期退職手当等とは

5年以下の勤続年数の退職者に対して支払われる退職金で、「特定役員退職手当等」にあたらないものをいいます。
典型的なケースは、一般の従業員として5年以下の勤続年数で退職する際に支払われる退職金です。
令和4年1月1日以後に退職日を迎える退職者から適用が始まります。

「役員等」とは

短期退職手当等の範囲を知るためには、「特定役員退職手当等」の範囲を知る必要があります。
「特定役員退職手当等」とは、役員等としての勤続年数が5年以下である人が退職し、その5年以下の勤続年数に対応するものとして支払われる退職金をいいます。
ここでいう「役員等」とは、法人税法上の役員等や、公務員が該当します。

5年以下の判定について

短期退職手当等の「5年以下」の判定は、退職金を支給する会社ごとに行います。 たとえばA社とB社から退職金を支給する場合、A社とB社それぞれの勤続年数で、各退職金が短期退職手当等に該当するかどうかを判定します。
注意が必要なのは、同じ会社に勤続中、役員等としての期間と使用人(一般の従業員)としての期間がある場合です。
この場合、5年以下の判定は、使用人の期間だけでなく、役員等としての期間も合わせて判定しなければなりません。
たとえば、使用人として4年勤務し、その後、役員に就任して2年勤務して退職した人に、4年分の使用人退職金と、2年分の役員退職金が支払われたとします。
このとき、2年分の役員退職金は「特定役員退職手当等」に該当しますが、4年分の使用人退職金は、「短期退職手当等」にあたりません。
短期退職手当等にあたるかどうかの勤続年数を、使用人の4年と役員の2年を合計した6年で判定するためです。
「短期退職手当等」にも「特定役員退職手当等」にもあたらない退職金は、「一般退職手当等」として通常どおりの方法で退職所得を計算します。
この例では、役員退職金(特定役員退職手当等)から計算した退職所得と、使用人退職金(一般退職手当等)から計算した退職所得の合計額から、源泉徴収税額を計算します。

創設の趣旨

短期退職手当等は、退職所得の計算時に2分の1課税を適用しない退職金の範囲を、役員等以外にも拡大するために創設されました。
退職手当には、それまでの勤労の対価の後払いや老後の生活原資という性質があるため、年計算である所得税や住民税の負担が重くなりすぎないよう、2分の1課税や分離課税によって、税負担を軽減しています。
しかし、退職後の再就職など短期間しか勤務しない者に、在職中の給与は低く設定し、代わりに高額な退職金を支払うことで、個人の税負担を低くしている実態がありました。
このことから、平成24年度税制改正によって、「特定役員退職手当等」にあたる退職金は、すべて2分の1課税が廃止されています。
そして、令和3年度税制改正によって、令和4年以降は「短期退職手当等」にあたる退職金にも、高額な部分には、2分の1課税が廃止されることとなりました。

退職所得の受給に関する申告書が新様式に

短期退職手当等の創設にともない、退職者から提出してもらう「退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)」の様式がリニューアルされています。
令和4年以降の退職者には、新しい様式を渡すようにしましょう。

(参考)国税庁:退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_37.htm

短期退職手当等から源泉徴収税額を計算するには

退職所得控除後300万円を超える部分は2分の1課税の適用なし

短期退職手当等の場合、退職所得控除額を控除した額のうち、300万円を超える部分のみ、2分の1課税が適用されません。
このことから、短期退職手当等の退職所得を計算式にすると、下記のようになります。

・「退職金の額(源泉徴収前の額)−退職所得控除額」≦300万円以下

(退職金の額−退職所得控除額)×2分の1
→300万円以下の部分は、通常の退職所得の計算方法と同じです。

・「退職金の額(源泉徴収前の額)−退職所得控除額」>300万円

→一見、何の計算をしているかわかりづらいのですが、全体から退職所得控除額を差し引いた額を@300万円以下の部分とA300万円超過部分の2つに分けて、@の部分にのみ2分の1を乗じて150万円としています。

・退職所得控除額

退職所得控除額の計算方法は、通常の退職金と同じです。

勤続年数(=A) 退職所得控除額
20年以下 40万円×A
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超 800万円+70万円×(A - 20年)

勤続年数の計算時、1か月未満の期間があるときは1年に切り上げます。
たとえば、勤続年数2年3か月の退職所得控除額は、120万円(40万円×3年)です。

短期退職手当等の影響を受ける退職金はほぼない?

短期退職手当等の計算では、源泉徴収をする前の退職金の総支給額から退職所得控除額を差し引いた額が「300万円以下」であれば、通常の退職金と同じ計算方法で退職所得を算出します。
このことから、短期退職手当等から源泉徴収をする際、通常の退職金と計算方法が異なるのは、勤続年数(※)1年で340万円、2年で380万円、3年で420万円、4年で460万円、5年で500万円を超える退職金を支払うケースになります。
入社から5年内に退職する一般の従業員に、この額を超える退職金を支払うケースは、それほど多くないと考えられます。
その分、判定方法や計算方法を忘れてしまいやすくなることに、注意が必要です。

短期退職手当等の計算例

【例:次の退職者の源泉徴収税額】
・2017年4月1入社〜2022年3月31日退職(勤続年数5年)
・役員等として勤務した期間なし
・退職金1,000万円
・その年や過去に退職金や確定拠出年金をもらったことがない
(退職所得の計算式)
1,000万円−40万円×5年=800万円>300万円
150万円+(1,000万円−300万円−200万円)=650万円
(源泉徴収税額の計算式)
国税庁の速算表を使用して所得税を計算し、その額に復興特別所得税(所得税×2.1%)を加算します。
(650万円×20%−42万7,500円)×102.1%≒89万822円(円未満切り捨て)

(参考)国税庁:所得税の税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

短期退職手当等のQ&Aも参考に

令和3年10月、国税庁から「短期退職手当等Q&A」が公表されました。
このQ&Aでは、短期退職手当等の退職所得の計算例や源泉徴収税額の計算例などが紹介されています。
同じ年に支給される2つ以上の退職金に重複期間がある場合や、前年以前4年以内に別の退職金の支払いがある場合の退職所得控除額の計算方法については、基本的には、改正前のとおりですが、以下のようなケースは、Q&Aで新たに示された内容となりますので、該当する場合は確認しておきましょう。
・他社から同じ年にすでに退職金をもらっている退職者に退職金を支給する場合で、自社と他社の勤続期間のうち、「特定役員退職手当等」「短期退職手当等」「一般退職手当等」の各勤続期間に重複があるとき(問8・問9)
・同じ会社で使用人兼務役員の期間があり、「特定役員退職手当等」と「短期退職手当等」の勤続期間に重複があるとき(問11)
・同じ会社が支給する2つの退職金が「特定役員退職手当等」と「短期退職手当等」であり、そのうち「短期退職手当等」が退職所得控除額によってマイナスが生じたとき(問12)
(参考)国税庁「短期退職手当等Q&A」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0021009-037_01.pdf

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