【令和4年1月開始】電子帳簿保存法の改正点について(電子帳簿保存)

この記事では、令和3年度税制改正による電子帳簿保存法のうち、「電子帳簿保存」(データで作成した帳簿や書類の保存)に関する改正点を解説します。
なお、この記事は、国税庁の「電子帳簿保存法一問一答」(令和3年7月)を基に執筆しています。適用時は、必ず最新の資料をご確認いただくか、税務署や税理士等にご相談ください。
(参考)国税庁:電子帳簿保存法Q&A(一問一答)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/4-3.htm

電子帳簿保存法の改正とは

電子帳簿保存法は、平成10年度税制改正によって創設された後、デジタル技術の進歩・普及に伴って改正を繰り返してきました。
直近の改正となる令和3年度税制改正では、税務署の事前承認が不要になったり適用要件が緩和されたりと使いやすくなった一方で、従来の厳格な要件を満たす事業者には特典を設けるなど、幅広い事業で導入ができるようになった点に特徴があります。
改正後の電子帳簿保存法は、令和4年1月1日以降の電子帳簿等の保存から適用が始まります。

【電子帳簿保存法とは】
所得税法・法人税法・消費税法では、税額計算の基になった各事業年度の帳簿や書類について、一定の年数が経過するまで保存することが義務付けられています。
保存方法は、原則は書面(紙)ですが、電子帳簿保存法によって、一定条件を満たす方法であれば、データで保存することが認められています。

電子帳簿保存の3つの区分について

電子帳簿保存法では、保存するデータを下記の3つに区分して、それぞれで保存要件を定めています。
・電子帳簿保存(データ作成した帳簿や書類の保存)
・スキャナ保存(紙で発行・受領した書類の保存)
・電子取引による取引情報の保存(送受信した取引情報の保存)
この記事では、上記の3つのうち「電子帳簿保存」の改正点について解説します。

電子帳簿保存の主な改正点

改正後の電子帳簿の保存要件一覧

改正後の電子帳簿の保存要件は、下記のとおりです。

保存要件 優良帳簿 最低限の要件
記録事項の訂正・削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認できる電子計算機処理システムを使用する
通常の業務処理期間を経過した後に入力を行った場合には、その事実を確認できる電子計算機処理システムを使用する
電子化した帳簿の記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できる
システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付ける
保存場所に、パソコン等、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書面に整然とした形式及び明確な状態で速やかに出力できるようにしておく
【検索要件】
@取引年月日、取引金額、取引先により検索できる
A日付または金額の範囲指定により検索できる
B2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できる
〇※
税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている

※ダウンロードの求めに応じる要件を満たしている場合、【検索要件】のAとBは不要

【検索要件】の緩和

改正前は、電子帳簿の記録を「取引年月日、勘定科目、取引金額、その帳簿の種類に応じた主要な記録項目」で検索できる機能が必要でしたが、改正後は、この項目が「取引年月日、取引金額、取引先」に限定されます。
なお、次項の要件で電子帳簿保存を適用する場合であれば、この検索要件を満たさなくても、電子帳簿保存ができるようになります。

最低限の要件を満たせば適用可能に

上記の表のとおり、システム関係書類等の備え付け、パソコン等や操作マニュアルの備え付け、税務職員の職権によるダウンロードの求めに応じるといった最低限の要件を満たせば、令和4年1月1日から電子帳簿保存ができるようになります。
これによって、これまで求められるシステムの水準が高すぎて導入できなかった事業者でも、電子帳簿保存を利用しやすくなると考えられます。
ただし、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従って記録されるものに限られることや、個人事業主で青色申告特別控除65万円を受けたい場合は、注意が必要です。(後述する「改正の注意点」参照)

優良な電子帳簿の特典

一定の国税関係帳簿(※)について、改正前の水準とほぼ変わらない優良な電子帳簿の要件を満たして備付け・保存を行う場合は、あらかじめ税務署に届け出をすることによって、過少申告加算税の軽減措置を受けることができるようになります。
この軽減措置とは、その帳簿に記録された事項に関して後に過少申告加算税が課されることがあった場合、その過少申告加算税が5%軽減されるというものです。
税務署への届け出は、適用を受けたい初年度の法定申告期限までに行う必要があります。
なお、上記の表のとおり、税務職員の職権によるダウンロードの求めに応じることができるときは、【検索要件】のうち、A日付や金額範囲を指定して検索できる機能とB2つ以上の任意の項目を組み合わせて検索できる機能は求められません。

(※)所得税法・法人税法によって青色申告者が保存しなければならないこととされる総勘定元帳、仕訳帳その他必要な帳簿、または消費税法によって事業者が保存しなければならない帳簿のこと。なお、個人事業主で青色申告ができるのは、事業所得、不動産所得、山林所得に限られますので、これ以外の所得(例:一時所得、雑所得など)や所得控除の誤りによって過少申告加算税が生じても、この軽減措置の対象になりません。

事前承認制度の廃止

現行法では、電子帳簿保存を始める際、あらかじめ税務署への承認申請が必要ですが、改正後はこの申請が不要になります。

電子帳簿保存の改正に関する注意点

改正前の要件で電子帳簿保存を行っている場合の経過措置

改正「前」の要件で引き続き保存を継続したい場合
そのまま電子帳簿保存を続けることができます。
ただし、令和4年1月1日以降も改正「前」の要件で保存し続けなければなりません。

改正「後」の要件に移行したい場合 原則的には、改正前の電子帳簿保存にかかる取りやめの届け出が必要になります。
ただし、以下のいずれかの対応をすれば、この届け出をする必要はありません。

・ 改正後の要件で電子帳簿保存を開始した日(過少申告加算税の軽減措置の適用を受ける場合には、優良な電子帳簿の要件で保存等を開始した日を含む)について、後日明らかにできるよう管理・記録をし、後に税務調査があった際に、その内容について答えられるようにしておくこと ・過少申告加算税の軽減措置を適用するための届け出に、併せて保存を取りやめる承認済の国税関係帳簿の種類等を記載すること

令和4年1月1日以降に改正「前」の要件で始めたい場合

あまりない例かもしれませんが、この場合は、令和3年9月30日までに、税務署に電子帳簿保存の承認申請を行う必要があります。

青色申告特別控除65万円を適用するには

青色申告特別控除55万円を適用できる個人事業主は、「電子帳簿保存」か「電子申告」のいずれかを行うことで、その年の控除額を55万円から65万円にすることができます。
改正後、「電子帳簿保存」によって65万円の控除を受けるには、優良な電子帳簿の要件を満たし、過少申告加算税の軽減措置を行う必要があります。

参考資料
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021006-031_04.pdf
問1、15,29,30,36,52,53

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