在宅勤務手当などの支給に関する源泉徴収義務について

国税庁から「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」(以下、「在宅勤務FAQ」)が今年1月に公表されました。
その後、4月末と5月末に、新しい内容が追加されています。
この記事では、在宅勤務FAQの中で特に多くの会社に関係すると考えられる、

・在宅勤務に関する物品を従業員に支給する場合
・在宅勤務手当を従業員に支給する場合
・在宅勤務に関する費用を実費精算して支給する場合

について、給与課税の対象になるもの・ならないもののポイントを、追加内容を含めて解説します。

在宅勤務手当・在宅勤務費用の源泉徴収について

「在宅勤務FAQ」は、在宅勤務をしている従業員に支給する手当や物品が「給与」として課税される対象にあたるかどうか、つまり源泉徴収をしなければならない対象かどうかを会社で判断するのに役立つものです。
源泉徴収税にも税務調査があって、その際には、会社の経費から、従業員の給与にあたるものがないかを主にチェックされます。
給与にあたるのに、そこから源泉徴収を行っていないと、不足税額を追徴されたり、納期限に対して納税額が不足していたという理由から、10%の不納付加算税が発生したりすることがあります。
このことを回避するために、在宅勤務を行っている従業員に金銭や現物を渡しているすべての会社は、「在宅勤務FAQ」を活用して、徴収不足がないかどうかを一度チェックする必要があります。

在宅勤務に関する物品を支給する場合:「貸与」なら給与課税なし

在宅勤務に必要な物品を支給するときは

1:事務用品(パソコンなど)
2:環境整備品(椅子や机、空気清浄機など)
3:消耗品(マスクや消毒液など)

に分けて考えます。
まず1と2を支給する場合は、従業員に「貸与」し、終わったら返してもらう形にすれば、給与として課税する必要はありません。
逆にあげてしまうと、いくらその時は業務に必要な物であっても現物給与にあたります。
なぜなら、通常の勤務に戻った後もプライベートで使い続けることができるからです。
これに対し、3には貸与がなじまないので、渡し切りで支給して構いません。
ただし、業務とは関係なく使用する分や、従業員の家族などを対象に支給する分まで与えると、その分は現物給与にあたります。
3が現物給与にあたるかどうかを判定する要素の一つは、支給する量になると考えられますので、たとえば同居家族の数に合わせて交付する量を変えるようなときは注意してください。

在宅勤務手当を支給する場合:給与課税あり

続いては、在宅勤務手当として金銭を支給する場合です。
たとえば一律5,000円などを毎月会社から支給すると、その全額が給与課税の対象になります。
ここでいう在宅勤務手当とは、使わなかったとしても返還する必要のない渡し切りの手当のことです。
家族手当などと同じで、給与として所得税が課税される対象になります。

在宅勤務に関する費用を実費精算して支給する場合:給与課税なし

在宅勤務のために通常必要とされる費用を、実費精算によって金銭で支給する場合は、給与として課税する必要はありません。
実費精算の方法については、

・会社が前もって従業員に金銭を仮払いし、従業員が支払いを行った後、領収書等に基づいて差額を精算する方法(使わなかった分は会社に返還してもらう)
・従業員が立て替え払いを行い、後から領収書等に基づいて実費を支給する方法

のどちらで支給しても、扱いは同じです。
気になるのは、「通常必要とされる費用」の範囲ですが、在宅勤務FAQでは、次の費用を実費精算した場合は給与としなくてよいとしています。

・在宅勤務に必要な物品(事務用品、環境整備品、消耗品)の購入費
・従業員の自宅の電気代のうち、業務のために使用した分
・従業員の通信費のうち、業務のために使用した分

ただし、それぞれには、給与にあたらないための条件があります。
以下、その条件について解説します。

物品の購入費が非課税になる条件

在宅勤務に必要な物品の購入代金を支給する場合、物品そのものを支給する場合と同じです。
購入した物品(事務用品、環境整備品)を「貸与」するのであれば、給与として課税する必要はありません。
消耗品の購入費を支給するときは、以下に該当すると、給与課税の対象になります。

・勤務とは関係なく使用する消耗品の購入費用を支給する
・従業員以外の者を対象とする消耗品の購入費用を支給する
・使わなかった金銭を返還しなくてよいとする

従業員の自宅の電気代が非課税になる条件

在宅勤務をすれば、従業員の自宅の電気代は高くなります。
しかし、業務に使用した金額を別にして、電力会社から請求してもらうことはできません。
ではいくらまでなら給与として課税しなくてよいかというと、国税庁は、次の計算式による金額を業務に使用した分として精算する場合、給与として課税しなくてよいとしています。

【計算式】
その月の電気代×在宅勤務に使用した床面積の割合×在宅勤務日数の割合×2分の1

「2分の1」とは、統計による平均睡眠時間(7時間40分)を除いた1日の時間のうち、法定労働時間(8時間)が占める割合から算定されたものです。
ところで、上記の計算式は、実際に使ってみるとわかるのですが、かなり低い数字がでます。
国税庁は、これよりも精緻な方法で計算できるなら、その方法を使用して構わないとしています。
したがって、上記の計算式より多い金額を渡していたとしても、より合理的な計算方法に基づく金額であれば、課税しなくてよいということです。

従業員の通信費が非課税になる条件

従業員が負担するインターネットの基本料金やデータ通信料についても、次の計算式で計算した額を支給する場合、給与として課税しなくてよいとしています。

【計算式】
基本料金やデータ通信料×在宅勤務日数の割合×2分の1

計算するときに、業務に関係のない音楽や動画配信等の利用料などの料金や、スマートフォンの本体代金などは、基本料金やデータ通信料から除いてください。
なお、私物のスマートフォン等を業務に使う場合に発生する「通話料」は、通話明細を見れば、電話番号から業務のために発生した料金を区別することができます。
よって、通話料は、通話明細による実費精算が原則です。
ただし、通話を頻繁に行う業務(※)に従事する従業員は、上記の計算式に通話料を含めて計算することも、例外的に認められます。

(※)顧客や取引先と連絡を取る機会が多いと会社が認める業務。たとえば営業担当や出張担当者など。

まとめ

内容をまとめると

・現物支給は「貸与」なら非課税
・金銭支給は「実費精算」なら非課税

となります。
また、電気代や通信料(通話料を除く)については、合理的な計算方法によって精算した範囲内なら、非課税でOKです。
しかしながら、在宅勤務FAQに書かれている精算方法を徹底することは、多くの在宅勤務者を抱える会社にとって易しいことではありません。
そして、会社にとって一番良くないのは、源泉徴収税額のミスが税務調査で発覚することにあります。
そのため、最初から一定額を手当として支給し、給与として課税したほうがいいという選択もよいでしょう。
なお、在宅勤務FAQでは他にも、下記の内容について記載されています。

・レンタルオフィスや感染が疑われたため使用するホテルなど、外部施設の利用料を会社が負担する場合
・従業員の自宅の室内消毒、従業員のPCR検査費用を会社が負担する場合
・食券(食事)を支給する場合

必要に応じて、これらも参考にしてください。
国税庁HP:「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf

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