ひとり親控除の概要と令和2年分の年末調整の注意点

令和2年分の年末調整・確定申告から、「ひとり親控除」の適用が始まります。
「ひとり親控除」のポイントは以下の3つです。
・「ひとり親控除」は、婚姻歴の有無に関係なく受けられる
・従来の寡婦控除・特別の寡婦・寡夫控除は「ひとり親控除」・「寡婦控除」・「控除なし」の3パターンに移行する。
・新制度に移行する者は、令和2年の年末調整に注意点あり

■未婚でも受けられる「ひとり親控除」の創設

従来の寡婦(夫)控除・特別の寡婦は、夫や妻と離婚した人や死別した人など、婚姻歴のある人しか対象になりませんでした。
これに対し、令和2年から適用が始まる「ひとり親控除」は「現に婚姻をしていない者」を対象としています。
したがって、離婚や死別によって独身となった人のほか、未婚の母(父)も対象になります。
また、適用要件や控除額に、性別による差はありません。
ひとり親控除を受けるには、男女とも下記の要件を満たす必要があります。

<ひとり親控除の要件>
・現に婚姻をしていない者や配偶者の生死の明らかでない一定の者
・生計を一にする子ども(※)がいること
・控除を受ける本人の合計所得金額が500万円以下であること
・事実婚関係と同様の事情にあると認められる一定の者がいないこと
(※)合計所得金額48万円以下で、かつ他の人の扶養親族になっていない子ども

<ひとり親控除の額>
35万円

■従来の控除を受けていた人は追加要件あり

従来の寡婦控除・特別の寡婦・寡夫控除の要件を満たしている人は、令和2年以降、追加要件を満たすことで新制度に移行します。

令和元年まで 追加要件 令和2年から
寡婦控除(27万円) ・所得500万円以下
・事実婚なし
寡婦控除(27万円)
特別の寡婦(35万円) 事実婚なし ひとり親控除(35万円)
寡夫控除(27万円) 事実婚なし ひとり親控除(35万円)

「特別の寡婦」と「寡夫控除」には、もともと「合計所得金額が500万円以下」という要件があります。
よってこの2つは、「事実婚関係と同様の事情にあると認められる一定の者がいない」という要件をクリアすれば、ひとり親控除を受けることができます。
寡婦控除を受けていた人については、次項で解説します。

h3令和2年以降の寡婦控除の要件

従来の寡婦控除の対象には、次の2パターンがありました。

1 ・夫と離婚や死別し(又は生死不明)、その後婚姻していない
・扶養親族又は生計を一にしている子がいる
2 ・夫と死別し(又は生死不明)、その後婚姻していない
・合計所得金額500万円以下

従来の寡婦控除は、上記のとおり、本人に子どもがいなくても受けることができます。(パターン1は扶養親族がいれば適用可)
令和2年以降もこの控除は継続しますので、ひとり親にあたらない女性は、寡婦控除を検討することが可能です。
ただし令和2年からの新しい寡婦控除には、下記の2つの要件が追加されます。
・控除を受ける本人の合計所得金額が500万円以下であること
・事実婚関係と同様の事情にあると認められる一定の者がいないこと
パターン2にはもともと合計所得金額500万円以下の要件があったのですが、これを新しい寡婦控除の共通要件として追加することにより、令和2年以降、「ひとり親控除」も「寡婦控除」も、合計所得500万円以下である人しか受けられなくなりました。
なお、新しい寡婦控除の要件を満たしている人に「生計を一にする子」がいる人は、「ひとり親控除」の対象となります。

h2令和2年分の年末調整の注意点

令和2年分の扶養控除等申告書は、「寡婦」、「寡夫」、「特別の寡婦」の旧区分で作成されています。
つまり、年末調整前は旧区分にチェックがついている(あるいは何もチェックされていない)状態です。
そのため下記のケースにあたる人は、年末調整の際、年末調整を受ける人から会社に控除内容の異動を申告する必要があります。
・チェックなし→ひとり親控除に該当する人
・「寡婦」にチェック→ひとり親控除に該当する人
・「寡婦」、「寡夫」、「特別の寡婦」にチェック→追加要件を満たさないため控除の対象外になる人

この時の申告方法については、国税庁のFAQによると、
・令和2年分の扶養控除等申告書の旧区分の文字を二重線で消して使う
・新区分に変わっている「令和3年分」の扶養控除等申告書を「令和2年分」に訂正して使う
・国税庁の「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」を使って扶養控除等申告書を作成する
といった方法が示されています。

(参考)国税庁:ひとり親控除及び寡婦控除に関するFAQ(質疑事例6,8)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020004-145.pdf

なぜ令和2年分の扶養控除等申告書が旧区分になっているか、疑問に感じられるかも知れませんが、これは、令和2年中の源泉徴収を旧区分で行うように決められていたからです。
令和3年からは源泉徴収も新区分となりますので、扶養控除等申告書の様式もリニューアルされています。
年始に申告した控除の区分が年末調整時に変わることは、普段はあまりない対応になると思います。
年末調整を受ける側と社内の担当者がお互いに気をつけて、スムーズに新制度を適用できるようにしましょう。

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所得金額調整控除の対象となる人や控除額の計算方法を解説

令和2年分の年末調整や確定申告から、給与所得の計算に「所得金額調整控除」という新しい控除が加わります。
「所得金額調整控除」とは、給与所得控除額の減少による増税の影響をなくすための控除です。
「所得金額調整控除」の対象者は、以下の2パターンに分かれます。
A:給与収入が850万円を超える人のうち、本人や家族が一定の要件を満たす人
B:給与と年金を両方受け取っている人のうち、それらの合計所得が10万円を超える人
年末調整で対応できるのはAのみで、Bを受けたい人は確定申告をする必要があります。
この記事では、年末調整の対象となるAについて、対象者や控除額を解説します。

■所得金額調整控除の目的

令和2年分から、給与所得を計算するときの控除である「給与所得控除額」が減少します。
それによって、給与収入が850万円を超える人は前年よりも給与所得が大きくなります。
もう少し詳しくいうと、令和元年の給与所得控除額は、給与収入1,000万円まで控除額が上昇するしくみでした。
しかし令和2年以降の給与所得控除額は、850万円が控除額の最大値となります。
よって850万円を超える人が前年と同じ給与を受け取った場合、控除額が減少した分だけ給与所得が増え、増税となってしまうのです。
しかし子どもを育てている家庭や障がい者と暮らしている家庭にまで、税負担を大きくすることは適切ではありません。
そこで、本人や家族が一定の要件を満たす人については「所得金額調整控除」によって、増税の影響を受けない措置ができることになりました。

所得金額調整控除の対象者の要件

給与収入が850万円を超える人のうち、以下のいずれかにあたる人
・本人が特別障害者に該当する
・23歳未満の扶養親族がいる
・特別障害者である同一生計配偶者がいる
・特別障害者である扶養親族がいる

所得金額調整控除額の計算方法

<計算式> (給与収入額※−850万円)×10%
※1,000万円を超える場合は1,000万円

所得金額調整控除額の最大額は15万円です。
この控除額と基礎控除の10万円の増額分を合わせると、前年と同じ水準で課税所得を計算することができます。
なお、所得金額調整控除額の計算は年末調整を行う側(会社側)が行います。
年末調整を受ける側は、会社に「所得金額調整控除申告書」(基礎控除申告書・配偶者控除等申告書と兼用)を提出すればOKです。

確定申告をすることも

年末調整における850万円の判定は、年末調整を行う勤務先が支給する給与のみで行います。
そのため2か所以上から給与を受けている人で、給与を合算して850万円を超える人は、年末調整ではこの控除を受けることができません。確定申告で受けることになります。
なお繰り返しとなりますが、給与と年金を両方受け取っている人が所得金額調整控除を受けるには、確定申告が必要です。

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