雇用調整助成金の益金算入時期の違いに注意

新型コロナウイルス対策として国や自治体から会社に支給される持続化給付金や休業協力金、雇用調整助成金などの金銭は、法人税の課税対象になります。
通常、補助金や助成金は支給が確定したタイミングや支給されたタイミングで益金に算入しますが、雇用調整助成金については、支給額が確定していないまま決算を迎えると支給額を見積もって益金に計上しなければならないため注意が必要です。

■雇用調整助成金とは

雇用調整助成金とは、景気の後退など経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員を一時的に休業させたり教育訓練を受けさせたりして雇用を維持する場合に、事業主から従業員に支給する休業手当、賃金などの一部を助成するものです。
現在は新型コロナによる「特例措置」として、支給対象や助成率の拡充、助成金額の上限アップなど、通常時よりも有利な条件で受給することができます。

雇用調整助成金の計算方法

<計算式>
平均賃金額×休業手当等の支払率×助成率

・平均賃金額
通常は一定の間に支払われた賃金から計算した1日あたりの平均賃金額となりますが、特例措置では簡便な計算方法が認められています。 専用の申請様式を使って助成金額を計算しましょう。

厚生労働省HP:雇用調整助成金の様式ダウンロード
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

申請様式は、
・小規模事業主用(従業員が概ね20人以下の事業主)
・小規模事業主以外の中小企業・大企業用
で分かれているため該当する方を選びましょう。

・休業手当等の支払率
雇用調整助成金を受給するには、平均賃金の6割以上の支払率が必要です。

・助成率
助成率は中小企業と大企業で分かれます。
緊急対応期間中の助成率は、それぞれ下記のとおりです。

中小企業 大企業
4/5
(10/10)
2/3
(3/4)

( )は解雇をしていないなどの要件を満たす場合の助成率になります。

雇用調整助成金の支給上限額

特例措置により、1人1日あたり1万5,000円が上限となります。(通常時は8,370円)

■雇用調整助成金の益金算入時期

雇用調整助成金は、会社が従業員に支払う休業手当等を補てんするためのものです。
支給された事業年度ではなく、休業や職業訓練などがあった日の属する事業年度の益金に算入されます。
したがって申請から支給までの期間が決算をまたぐ場合は、休業等を実施した日を基準に益金の算入時期を判断することになります。
このとき支給額が確定していなくても、支給額の見積り額を益金に計上しなければなりません。

(参考)法人税法基本通達2−1−42
"法人の支出する休業手当、賃金、職業訓練費等の経費を補てんするために雇用保険法、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定等に基づき交付を受ける給付金等については、その給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった日の属する事業年度終了の日においてその交付を受けるべき金額が具体的に確定していない場合であっても、その金額を見積り、当該事業年度の益金の額に算入するものとする。"

参考資料
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000645240.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000645244.pdf
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_01_06.htm

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新型コロナ税特法による新設法人の免税制限の解除について

新設法人や特定新規設立法人が基準期間のない課税期間中に調整対象固定資産を取得した場合、その課税期間から3年間は、免税事業者になることが制限されます。
しかし新型コロナ税特法では、この3年間の制限を解除することが可能です。
今回は、新設法人などが基準期間のない課税期間中に調整対象固定資産を取得した場合の特例について解説します。
※この記事では法人の課税期間は1年であるものとして解説します。

■「新設法人」「特定新規設立法人」の納税義務

まずは「新設法人」「特定新規設立法人」の消費税の納税義務(通常時)について見ていきましょう。

「新設法人」「特定新規設立法人」とは何か

「新設法人」とは、基準期間がない法人のうち、事業年度開始の日の資本金等の額が1,000万円以上である法人のことです。(消費税法第12条の2第1項)
「基準期間がない法人」とは、通常、設立2期目までの法人を指します。
「特定新規設立法人」とは、基準期間がない法人のうち、5億円を超える課税売上高がある会社から50%を超える株式を保有されるなどして支配されている法人のことです。(同法第12条の3第1項)

新設法人・特定新規設立法人は納税義務が免除されない

法人を設立したばかりの時期は基準期間がないため、基本的に法人は設立から2期目まで消費税の免税事業者となります。
しかし、新設法人のように設立当初から資金力の大きい会社や、その会社自体の資本金は少額でも売上規模の大きい会社の子会社である特定新規設立法人には、このルールは適用されません。
よって新設法人と特定新規設立法人は、設立1期目・2期目ともに課税事業者になります。

調整対象固定資産を購入すると3年間免税制限

新設法人や特定新規設立法人が、基準期間のない間(設立1期目・2期目)に調整対象固定資産(税抜き100万円以上の固定資産など)を購入すると、購入した期の初日から3年間は免税事業者になることが制限されます。
たとえ、基準期間の課税売上高が1,000万円以下になるなど免税事業者の要件を満たしてもこの間は免税事業者になれません。

■新型コロナ税特法の要件

新型コロナ税特法では、一定の要件を満たすことによって、新設法人・特定新規設立法人が設立1期目・2期目に調整対象固定資産を購入したときの免税制限を解除することができます。(設立1期目・2期目が課税事業者となる点は変わりません。)
以下、この特例を受けるための要件や手続きを解説します。

1ヶ月以上の収入が50%以上減少している

新型コロナ税特法の対象となるのは、令和2年2月1日〜令和3年1月31日までの間のうち、任意の連続した1ヶ月以上の期間の事業による収入が、前年同期比で概ね 50%以上減少していると認められる事業者です。
この期間を含む課税期間のことを「特定課税期間」といいます。
新型コロナ税特法による免税制限の解除は、免税事業者になることが制限される3年間のうち、「特定課税期間」以後の課税期間に適用されます。

新型コロナ税特法を適用するための手続き

税務署長の承認が必要です。
「新型コロナ税特法第 10 条第4項から第6項の規定に基づく納税義務の免除の特例不適用承認申請書」と必要書類を、次の期日のいずれか遅い日までに税務署に提出します。
・特定課税期間の確定申告書の提出期限
・基準期間のない事業年度のうち、最後の事業年度終了の日

■【事例】

・10月決算法人(資本金1,000万円で令和元年11月に設立)
・特定課税期間 令和2年10月期(R1.11.1〜R2.10.31;設立1期目)
・(状況)令和2年4月に感染防止対策に伴う設備(調整対象固定資産)を購入。その後、令和2年5月1日〜同月31日の売上高が前年同期比で60%減少した。

申請期限

事例の場合、申請期限は「令和3年10月31日」になります。
A:特定課税期間の確定申告書の提出期限
 →令和2年12月末
B:基準期間のない事業年度のうち、最後の事業年度終了の日
 →令和3年10月31日
いずれか遅い方なので、Bとなります。
Aは国税通則法第11条によって、災害その他やむを得ない理由による申告期限の延長を受けている場合は、その期限となります。

事例の検討

通常であれば令和3年10月期(R2.11.1〜R3.10.31)と令和4年10月期(R3.11.1〜R4.10.31)は免税事業者になることができませんが、特例を適用することで令和4年10月期は免税制限が解除されます。
令和3年10月期は、設立2期目であるため免税事業者にはなれません。
なお、令和4年10月期も税法上の要件で課税事業者となる要件を満たしていれば免税事業者になれないため注意が必要です。

【注意】免税事業者になれないケース

新設法人・特定新規設立法人の基準期間のない課税期間(設立1期目・2期目)は、納税義務が生じます。
これは新型コロナ税特法でも解除できません。
また、基準期間や特定期間の課税売上高等が1,000万円を超えるなど、税法のルールで納税義務が生じる課税期間についても特例の対象になりません。
たとえば、設立2期目(特定課税期間)に調整対象固定資産を購入し、3〜4期目が納税義務者となる場合、1期目の課税売上高が1,000万円を超えていれば、3期目は特例を適用しても免税事業者にはなれず、通常どおり課税事業者となります。

参考資料
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/keizaitaisaku/shohi/pdf/syouhizei3.pdf
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6503.htm
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/22/15.htm

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