新型コロナによる消費税の課税事業者の選択にかかる特例

今回は、新型コロナ税特法による消費税の課税事業者の選択にかかる特例の一部について解説します。
(参考)国税庁「新型コロナ税特法に係る消費税の特例に関するQ&A」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/keizaitaisaku/shohi/index.htm

■新型コロナによる消費税の課税選択の特例って何?

現在、消費税の課税事業者の選択には、以下の規制があります。

・「課税事業者⇔免税事業者」の選択は、課税期間が開始する「前」に届け出なければならない

これに対し、新型コロナによって一定の売上減少のある事業者は、

・「課税事業者⇔免税事業者」の選択の手続き期限がいつもより長くなる

といったメリットのある特例が使えるようになりました。
この特例を使えば、通常時では絶対にできない「課税事業者→免税事業者」に1年でシフトすることも可能となります。
なお、基準期間等の課税売上高によって強制的に課税事業者になった事業者を免税にする特例ではないので注意してください。

特例の対象となる事業者

令和2年2月1日〜令和3年1月31日までの間のうち、任意の連続した1ヶ月以上の期間の事業による収入が、前年同期比で概ね 50%以上減少していると認められる事業者です。
1ヶ月以上の期間であればよいため、比較可能であれば40日間などでも構いません。
事業開始から1年未満の事業者には、別途比較方法があります。

特例を使うメリットのある事業者

この特例を使うメリットのある事業者は、たとえば
・新型コロナの影響で設備投資を行い、課税事業者を選択したい事業者
・新型コロナの影響で売上が減少したため課税事業者の選択を一旦やめたい事業者
などであると考えられます。
他にも新設法人で一定の固定資産を購入した事業者や、1,000万円以上の一定の資産を購入したことで免税に戻れない事業者にもメリットのある特例なのですが、今回の記事ではその部分は省略しています。

■課税事業者を選択する(やめる)手続きの期限が長くなる

それでは特例のメリットである、課税事業者を選択する(やめる)ための手続き期限がいつもより長くなることについて解説します。

通常は、課税期間の開始「前」に届け出なければならない

課税事業者となることをあえて選択する(やめる)とき、通常は選択したい(やめたい)期の始まる「前」に税務署に届出書を提出しなければなりません。

特例では開始「後」でも申請によって選択可能に

特例では、選択したい(やめたい)期が始まった「後」でも「課税事業者⇔免税事業者」を申請によって選択することが可能です。
申請の期限は、50%以上の収入減があった期間を含む課税期間(以下、「特定課税期間」)を基準とし、下記のとおり決められています。

【課税事業者を選択する場合】(※)
特定課税期間の末日の翌日から2ヶ月以内(個人事業主は、その年の12月31日の属する課税期間の場合は3ヶ月以内)

【課税事業者の選択をやめる場合】
A〜Cの3パターンに分かれます。
A:特定課税期間からやめる場合(※)
特定課税期間にかかる確定申告書の提出期限
B:特定課税期間の翌期からやめる場合(※)
特定課税期間の末日が、課税事業者の選択によって課税事業者となった課税期間の初日以後2年を経過する日以後に到来する場合は、特定課税期間にかかる確定申告書の提出期限
C:上記以外でやめる場合
 「2年経過日の属する課税期間の末日」と「課税期間の選択をやめようとする課税期間の末日」とのいずれか早い日 (※)国税通則法第11条の規定によって確定申告期限の延長を受けられる場合があります。

わかりづらいのは、【課税事業者の選択をやめる場合】のA〜Cの違いだと思います。
これについては、後に10月決算法人の事例で使い分けの方法を解説します。
ただし、ご自身の企業で適用される際は必ず税理士や税務署に期限の確認をとりながら慎重にすすめてください。

特例の申請方法

専用の「特例承認申請書」を作成し、上記の期限内に税務署に提出する必要があります。
このとき、
・収入の減少がわかる書類(損益計算書や試算表、現金出納帳など)
・「消費税課税事業者選択届出書」(「消費税課税事業者選択不適用届出書」)
も一緒に提出します。

■免税事業者に戻るための届け出ができない期間がなくなる

続いて特例のもう1つのメリットである、免税事業者に戻るための届け出ができない期間がなくなることについて解説します。

通常は数年間、免税事業者に戻れない

課税事業者を選択すると、通常は、少なくとも2期、免税事業者に戻ることができません。
免税事業者に戻るには、戻りたい期の開始「前」に「課税事業者選択不適用届出書」を提出する必要があるのですが、その提出が可能となるのは、翌課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後とされているからです。(消費税法第9条第6項)
つまり課税期間が1年であれば、提出が可能となるのは課税事業者を選択した翌期からになります。
すると最短でも免税事業者に戻れるのは、翌々期になるということです。
さらにこの期間中に、調整対象固定資産(税抜き100万円以上の固定資産など)を購入すると、その期を含めて3期は免税事業者に戻れません。
これは最短で届出書を提出できるのが、購入した期の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後とされているためです。(同法第9第7項)

特例では提出の制限がない

特例では上記の「課税事業者選択不適用届出書」を提出できない期間のルールが適用されません。
これにより、翌期から課税選択をやめることができます。

■特例を使った具体的事例

最後に、10月決算法人が
・特例によって課税事業者になる場合
・翌期からすぐに免税事業者に戻る場合
の各申請期限について解説します。

【事例1】課税事業者を選択するとき

<事例> ・10月決算法人(課税期間1年)
・特定課税期間 令和2年10月期(R1.11.1〜R2.10.31)
・(状況)令和2年5月1日〜同月31日の売上高が前年同期比で60%減少。このことから、令和2年7月に業態の変更や感染防止対策に伴う設備投資を実施。令和2年10月期から課税事業者を選択し、消費税の還付を受けたい。

<申請期限>
・令和2年12月末
上記の期限までに手続きをすることで、通常の期限どおりに届け出を行ったものとみなされます。

【事例2】事例1ですぐに免税事業者に戻りたい場合

<事例>
・事例1により令和2年10月期に課税事業者になった
・翌期(令和3年10月期)からすぐに免税事業者に戻りたい

<申請期限>
・令和3年10月末
この場合、「特定課税期間の末日」を基準に、前述の【課税事業者の選択をやめる場合】のBとCのどちらを適用するかを検討します。(Aは特定課税期間から選択をやめる場合の期限ですので、この事例には関係ありません。)
まず、「特定課税期間の末日」は令和2年10月31日です。
したがってBは使えません。
なぜなら特定課税期間の末日(R2.10.31)が、課税事業者になった課税期間(R1.11.1〜R2.10.31)の初日以後2年を経過する日(R3.10.31)よりも前だからです。
よって、この場合はCの
・2年経過日の属する課税期間の末日
・課税期間の選択をやめようとする課税期間の末日
とのいずれか早い日が手続きの期限になります。
この事例ではどちらも令和3年10月31日ですので、この日までに申請を行うことになります。


参考資料
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/keizaitaisaku/shohi/pdf/syouhizei3.pdf
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/keizaitaisaku/shohi/pdf/syouhizei1-2.pdf

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