国外財産調書の4つの改正点について

国外財産調書とは、個人が国外に保有する財産を自ら税務署に報告するために作成する書類のことです。
この国外財産調書の内容が、令和2年度税制改正によって見直されています。
今回は、そもそも国外財産調書とは何か、そして具体的に何が変わったのかを解説していきます。

■国外財産調書とは

国外財産調書は、平成24年度税制改正で創設され、平成26年1月から施行された制度になります。
個人が国外に保有する財産、たとえば外国の預金や不動産などを、税務署に報告するために作成し提出する書類です。
提出義務があるのは、所得税法上の「居住者(非永住者以外)」のうち、国外財産の合計額が5,000万円を超える人になります。
正当な理由なく提出しなかったときには罰則もあるため、注意が必要です。
しかし、そもそもなぜ外国にある財産を税務署に知らせなければならないのでしょうか?

国外財産調書の目的

国外財産調書は、適正な課税・徴収を図る観点から施行された制度です。
主に所得税や相続税の徴収に役立てることがねらいとなります。
しかし、なぜ外国の財産が日本の税金に関係するのか、と疑問に思われる方もいらっしゃるかも知れません。
所得税は個人の「所得」に、相続税は個人の「相続財産」にかかる税金ですが、実は、その対象となる所得と相続財産は、国外のものにも及びます。
ほとんどの方が、国外で生じた所得や国外にある相続財産にも日本の税金がかかってしまうしくみになっているため、注意が必要です。

国外の所得に所得税がかかる方

所得税の課税対象は、その個人が「非永住者以外の居住者」に該当する場合、日本国内だけでなく、国外で生じた所得も課税の対象になります。
まず「居住者」とは、日本国内に住所があるか、現在まで引き続いて1年以上日本に居所がある人のことです。
「非永住者」とは、過去10年以内の間に日本国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である人を指します。
もし「非永住者以外の居住者」にあたる方が、たとえば国外にあるマンションから賃貸収入を得ている場合、それには日本の所得税がかかってしまいます。
余談ですが、居住者のうち「非永住者」にあたる方(例:外国から一時的に日本に移住して働いている人など)には、国外財産調書の提出義務はありません。
しかし、国外で生じた所得にまったく日本の税金がかからないかというとそうではなく、国外で生じた所得のうち
・日本国内において支払われたもの
・日本国内に送金されたもの
があれば、日本の所得税の課税対象となります。
なお日本国内で生じた所得については、その方が「非永住者」であっても、そもそも日本に住んでいない「非居住者」であったとしても、課税対象となります。

国外の相続財産に相続税がかかる方

相続税の場合は、相続人が「無制限納税義務者」にあてはまる場合、日本国内だけでなく国外に所在する相続財産も、日本の相続税の対象になります。
「無制限納税義務者」は、その方が日本に住んでいるかどうかによって
・居住無制限納税義務者
・非居住無制限納税義務者
の2種類に分かれますが、どちらも国内・国外の相続財産のすべてが課税対象です。
両者の定義は、正確に分類しようとするとかなり細かくなってしまうのですが、目安となるのは、相続人・被相続人のどちらか一方が過去10年以内に日本に住んでいたことがあれば、国内・国外の相続財産に相続税が課されるケースがほとんどです。
たとえば、日本にずっと暮らしている父が亡くなり、国外で暮らしているお子さんが父の所有する国外のマンションを相続した場合、相続人は日本にいませんが、そのマンションは、基本的には日本の相続税の対象になってしまうということです。
ただし、相続人・被相続人のいずれかに日本国籍がない場合、在留資格によって日本に住んでいる場合などは、組み合わせによっては国外の財産について日本の相続税の対象にならないケースが存在するため、こうした方の相続では、個別に検討が必要です。

■国外財産調書の4つの改正点

それではいよいよ、具体的に何が改正されたかを解説します。
改正点は、次の4つです。
・相続直後の国外財産調書等への記載の柔軟化
・過少申告加算税等の加重措置の見直し
・軽減、加重措置の判定基礎となる国外財産調書等の見直し
・書類の提示又は提出がない場合の軽減、加重措置の特例の創設

相続直後の国外財産調書等への記載の柔軟化

まずは緩やかになった改正点からです。
国外財産調書は、その年の12月31日時点での国外財産の合計額が5,000万円を超えるかどうかで提出義務を判定し、必要であれば翌年の3月15日までに提出しなければなりません。
改正では、もし相続によって国外財産を取得したとき、相続の開始した年の12月31日時点での国外財産には、その相続財産を含めなくてよいとされました。
含めないことによって、5,000万円以下となった場合は、提出も不要です。

過少申告加算税等の加重措置の見直し

国外財産調書は、提出しないこと自体に罰則もあるのですが、それ以外にも、国外財産調書に記載しておかなければならない財産から生じた所得について、所得税の申告漏れがあることがわかった場合、別途ペナルティがあります。
たとえば国外にある2億円のマンションから賃貸収入を得ていたのに、それを申告せず、後にその申告漏れが発覚して過少申告加算税が課されるケースがあったとします。
この場合、このマンションは国外財産調書に記載しなければならないもののはずですが、もし国外財産調書を提出していなかったり、マンションについて記載がなかったりした場合は、加算税が、通常よりも5%多くかかってしまいます。
改正前は、加重される加算税は「所得税」のみでしたが、改正後ではこれに、相続国外財産にかかる「相続税」が加わります。

軽減・加重措置の判定基礎となる国外財産調書等の見直し

5%の加重ペナルティがある一方で、逆にきちんと国外財産調書に記載されている財産について生じた加算税については、本来より5%軽減されます。
改正では、相続国外財産にかかる相続税の加算税について、5%の軽減や加重の措置をどの国外財産調書から判定するか、下記のとおり見直されました。

【軽減措置の対象となる国外財産調書】
次の国外財産調書のいずれかに記載があれば適用。
1 被相続人の相続開始年の前年分の国外財産調書
2 相続人の相続開始年の年分の国外財産調書
3 相続人の相続開始年の翌年分の国外財産調書

【加重措置の対象となる国外財産調書】
上記1〜3のすべてに記載がなければ適用。

ただし相続税の加重措置は、3の提出義務がない相続人には適用されません。

書類の提示又は提出がない場合の軽減・加重措置の特例の創設

もし国税庁の職員等から国外財産に関する書類の提出や提示を求められたとき、その職員等が定めた期限内にそれらをしなかった場合は、軽減・加重の措置が次のように変わります。
・軽減措置
 →その国外財産に係る加算税には適用しない
・加重措置
 →10%(適用前加算割合:5%)とする

■適用開始時期

改正点の適用開始時期は、以下のとおりです。

・相続直後の国外財産調書等への記載の柔軟化
→令和2年分以後の国外財産調書から適用開始。

・過少申告加算税等の加重措置の見直し
・軽減、加重措置の判定基礎となる国外財産調書等の見直し
・書類の提示又は提出がない場合の軽減、加重措置の特例の創設
→令和2年分以後の所得税、令和2年4月1日以後の相続・遺贈によって生じる相続税から適用開始。

▲ページトップへ戻る