「教育資金の一括贈与」の2019年度改正のポイント

■教育資金の一括贈与とは

教育資金の一括贈与とは、直系尊属から贈与された教育資金のうち1,500万円まで、贈与税が非課税になる制度です。
高年齢の世代から若年齢の世1代への財産の移転を促し、消費の活性化を図るという経済的施策としての側面があります。
直系尊属とは、実の親や祖父母などを指しますが、通常、親が子に支払う教育費のうち、「必要な都度」支払われるものであれば、贈与税の対象になりません。
そのため、教育資金の一括贈与は、祖父母から孫への贈与に活用されやすい制度になります。

■教育資金の一括贈与の改正点

2019年度税制改正における教育資金の一括贈与の改正点は、以下の4つです。
<2019年度税制改正における改正点>
・受贈者の所得の制限
・23歳以上の受贈者に対する教育資金の範囲の制限
・死亡前3年の贈与に対する課税措置の追加
・「教育資金管理契約」の終了となる事由の見直し

しかし、そもそもこの制度のしくみがわかりづらいため、具体的に何がどのように私たちに影響するのかが把握しづらいと思います。
そこで、制度の概要について、改正に関係する部分だけ部分的に補足しながら、改正点を具体例で確認していきます。

改正点1:受贈者の所得の制限

教育資金を取得する受贈者(孫など)の所得については、これまで制限がありませんでしたが、改正によって、贈与を受けた受贈者の「前年の所得」が「1,000万円を超える」場合、その教育資金は非課税にならないことになりました。
たとえば社会人になって毎年1,000万円を超える所得のあるお孫さんが、さらなるキャリアアップのために海外に留学することになったとしても、そのお孫さんへの教育資金の贈与は、非課税にならないということです。
なお、この改正は、2019年4月1日以降の贈与に適用されます。

【例】2018年の所得が1,000万円を超える孫への教育資金の贈与
・2019年3月1日:300万円を贈与→非課税の適用あり
・2019年4月1日:200万円を贈与→非課税の適用なし

改正点2:23歳以上の受贈者に対する教育資金の範囲の制限

23歳を迎えた受贈者(孫など)は、非課税となる教育資金の範囲に制限が設けられました。
そもそも、この制度の教育資金は、かなり広義です。
教育資金を大きく区分すると
・学校等に支払われる金銭
・学校等以外に支払われる金銭
に分かれます。

【教育資金の対象となる支払い】

区分 具体例 非課税上限
学校等に支払われる金銭 ・入学金、授業料、入園料・保育料等
・入学や入園の試験にかかる検定料
・在学証明等の手数料
・学用品の購入費や修学旅行費など学校教育に伴う費用
1,500万円 (ただし学校等以外に支払われる金銭は500万円まで)
学校等以外に支払われる金銭 ・教育(塾など)に関する費用や施設の利用料
・スポーツや文化芸術など習い事の費用
・上記に使用する物品の購入費用

・「学用品の購入費や修学旅行費など学校教育に伴う費用」のうち、その全部又は大部分を学生等が支払うべきものと学校等が認めたもの
・通学定期券代
・留学渡航費などの交通費

(いずれも社会通念上相当と認められるものに限られます)

非課税限度額は、贈与を受ける者1人につき合計1,500万円です。
学校以外の習い事やそれに使用する物品(例:楽器など)も対象になるため、かなり広い範囲で適用できます。
ただし、学校等以外に支払われる金銭については、1,500万円のうち500万円が非課税適用額の上限です。
そして、今回の改正によって
・教育(塾など)に関する費用や施設の利用料
・スポーツや文化芸術など習い事の費用
・上記に使用する物品の購入費用

(「学校等以外に支払われる金銭」の太字の部分)については、受贈者が23歳になった日の翌日以後に支払われる場合、「教育訓練給付金」の対象となる教育訓練の費用でなければ、教育資金に該当しないことになりました。
「教育訓練給付金」とは、雇用の安定や再就職を促進するための教育訓練の受講費に対する国の給付金です。
たとえば、25歳のお孫さんが2019年11月からピアノ教室に通い始めた費用は、それが教育訓練給付金の対象にならない限り、非課税となる教育資金にはなりません。
2019年7月1日以降に支払われるものが、この改正の対象になります。

改正点3:死亡前3年の贈与に対する課税措置の追加

教育資金の贈与は、一度に1,500万円を贈与してもよいですし、何回かに分けて贈与しても構いません。
ただし、2019年4月1日以降に行われた贈与後の3年以内に、贈与者(祖父母など)が亡くなってしまった場合、一定額が相続税の課税対象になります。

【例】孫に200万円の教育資金を贈与する場合

200万円を贈与した日 贈与者の死亡日 相続税の対象になるか
2019年3月1日 ならない
2019年4月1日 2022年11月1日 ならない
2019年4月1日 2021年11月1日 なる(※)

(※)受贈者が死亡日において「23歳未満の場合」または「学校等に在学しているか、教育訓練を受けている場合」を除く。

まず、2019年3月31日以前の贈与であれば、贈与者の死亡日にかかわらず相続税の対象にはなりません。
2019年4月1日以後の贈与が、贈与者の死亡前3年以内と重複する場合のみ、相続税の対象になります。
ただしこの場合でも、受贈者が死亡日において「23歳未満の場合」または「学校等に在学しているか、教育訓練を受けている場合」は相続税の対象になりません。
「学校等に在学しているか、教育訓練を受けている場合」であれば、その旨を金融機関に届け出る必要があります。
また、上記のケースの場合、200万円すべてが相続税の対象になるわけではありません。
ごく簡単に表現すると、使いきれず残った贈与額や非課税にならなかった払い出し額のうち、4月1日以降の贈与にあたる額を割合計算した額が相続税の対象になります。

【例】
・2019年3月1日に祖父から孫に300万円贈与
・2019年4月1日に祖父から孫に200万円贈与
・2019年11月1日に孫が教育資金として200万円を使用
・2021年11月1日、祖父が死亡(残額300万円)

この場合、相続税の対象になる額は、120万円(※)です。
(※)300万円×200万円/500万円
なお、受贈者は、贈与者が亡くなった場合、そのことを金融機関に届け出なければなりません。

改正点4:「教育資金管理契約」の終了となる年齢の見直し

教育資金の一括贈与を行う方法には、次の3つがあります、

・受贈者(孫など)と銀行で教育資金管理契約を締結し、贈与された金銭を預け入れる
・受贈者(孫など)と証券会社で教育資金管理契約を締結し、贈与された金銭で有価証券を購入する
・贈与者(祖父母など)が信託銀行と教育資金管理契約による信託を設定し、受贈者に信託受益権を贈与する

少し複雑に見えますが、どれも金融機関が「教育資金管理契約」という契約によってあらかじめ金銭を預かり、その後は受贈者が金融機関で手続きをして、金銭の払い出しが行われるというしくみになっています。
そして、「教育資金管理契約の終了」となる条件に該当した場合、その契約が終わり、もし口座に残額等があれば、それに対して受贈者が贈与税を支払うという流れになっています。
この「教育資金管理契約の終了」の条件の1つに、「受贈者が30歳に達した場合」というものがあります。
したがって、これまで受贈者が30歳になると、教育資金の一括贈与は終了していました。
改正では、この年齢要件に追加で、30歳以上の受贈者でも
・学校等に在学している場合
・教育訓練を受けている場合
のいずれかに該当し、その旨を受贈者から金融機関に毎年届け出た場合、最長で40歳に達する日まで「教育資金管理契約」を継続できるようになりました。

■今後、教育資金の一括贈与をうまく活用するには

今回の改正では、非課税のメリットを受ける必要性が一般的に高くないと考えられるパターンが排除されています。
高収入な受贈者に非課税が適用されなくなったことや、23歳以上の受贈者への制限に注意すれば、多くのケースではこれまでどおりに使うことができます。
教育資金の一括贈与の活用にメリットがあるのは、やはり小さいお孫さんに贈与するケースです。
お孫さんの大学卒業まで費用として活用すれば、本来その学費を負担しなければならない親(贈与者の子)への支援になります。
教育資金の一括贈与は、要件は複雑ですが、相続税対策に非常に大きな効果があります。
相続税対策を始めたい方、生前贈与を行いたい方は、税理士にぜひご相談ください。

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