インボイス制度で企業の請求書や帳簿はどう変わる?

2019年10月からの複数税率導入にともない、課税事業者は、仕入税額控除を行うための請求書等の記載要件などが変更となります。
今回は、2019年10月から導入される「区分記載請求書等保存方式」と、2023年10月から導入される「インボイス制度」について、記載要件の変更点などを中心に解説します。

インボイス制度とは

インボイス制度とは、軽減税率導入後の複数税率(8%と10%)に対応した消費税の仕入税額控除の方式のことです。
インボイス制度のもとで発行される請求書等を、「適格請求書」といいます。
インボイス制度で仕入税額控除を行うためには、原則としてこの「適格請求書」の保存が必要となるのですが、この「適格請求書」を発行できるのは、登録を受けた「適格請求書発行事業者」に限られます。
この登録を受けられるのは「課税事業者」に限定されるため、免税事業者が登録を受けるには、課税事業者になる必要があります。
登録の申請は、2021年10月から可能です。

インボイス制度の導入スケジュール

インボイス制度の導入は、複数税率の導入から4年後で、その前に「区分請求書等保存方式」という制度がスタートします。

【インボイス制度の導入スケジュール】

〜2019年9月末 2019年(令和元年)10月〜 2023年(令和5年)10月〜
請求書等保存方式 区分記載請求書等保存方式 適格請求書等保存方式
(インボイス制度)

インボイス制度は、現行の請求書等保存方式をベースに、複数税率に関する新たな記載要件などが追加されたもので、区分記載請求書等保存方式は、インボイス制度の前段階となる制度になります。

請求書等保存方式のポイント

区分記載請求書等保存方式、インボイス制度を知るためには、まず現行の請求書等保存方式を押さえる必要があります。 請求書等保存方式のポイントは、
・請求書等の記載要件と保存要件
・帳簿の記載要件と保存要件
に区分できます。

【請求書等保存方式のポイント】

記載要件 保存要件
請求書等 ・作成者(仕入先)
・日付
・取引内容
・対価の額(税込)
・宛先(自社名)
・課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間(5年経過後は、帳簿とどちらか1つの保存でよい)
・対価の額が3万円未満のものは帳簿保存のみでもよい。
帳簿 ・仕入れの相手
・日付
・取引内容
・対価の額
決算日から7年間(課税期間末日の翌日から2月を経過した日から5年経過後は、請求書等とどちらか1つの保存でよい)

区分記載請求書等保存方式とインボイス制度で変わるのは、主に記載要件の部分になります。

区分記載請求書等保存方式での変更点

区分記載請求書等保存方式では、請求書等と帳簿の記載要件に、次の下線部分が追加されます。

請求書等保存方式 区分記載請求書等保存方式
請求書等 ・作成者(仕入先)
・日付
・取引内容
・対価の額(税込)
・宛先(自社名)
・作成者(仕入先)
・日付
・取引内容(軽減税率対象品目については、その旨)
税率ごとに合計した対価の額(税込)
・宛先(自社名)
帳簿 ・仕入れの相手
・日付
・取引内容
・対価の額
・仕入れの相手
・日付
取引内容(軽減税率対象品目については、その旨)
・対価の額

つまり軽減税率の対象品目がある場合、帳簿と受け取った請求書等において、それがどの品かわかるよう記載があることが、仕入税額控除を行う要件となります。
また、請求書の対価の額は、税率ごとの合計額を記載する必要があります。
記載例はこちらが参考になります。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/02-06.pdf

インボイス制度での変更点

インボイス制度における記載要件の変更点は、次の下線部分になります。

区分記載請求書等保存方式 インボイス制度
請求書等 ・作成者(仕入先)
・日付
・取引内容(軽減税率対象品目については、その旨)
・対価の額(税率ごとに合計した対価の額(税込))
・宛先(自社名)
適格請求書発行事業者の登録番号
・日付
・取引内容(軽減税率対象品目については、その旨)
・税率ごとに合計した対価の額(税抜または税込)及び適用税率
消費税額等
・宛先(自社名)
帳簿 ・仕入れの相手
・日付
・取引内容(軽減税率対象品目については、その旨)
・対価の額
区分記載請求書等保存方式に同じ

■「適格請求書発行事業者の登録番号」とは

「適格請求書発行事業者」に登録することによって得られる番号のことです。

■「税率ごとに合計した対価の額(税抜または税込)及び適用税率」・「消費税額等」とは

インボイス制度では、区分記載請求書等保存方式の表示に加え、「適用税率」の記載と「消費税額」の記載が義務付けられました。税率ごとに合計した対価の額は、税込と税抜のどちらでも構いません。

記載例はこちらが参考になります。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf

その他の変更点

■3万円未満の請求書等の保存ルール

請求書等保存方式では、対価の額が3万円未満の場合、帳簿保存のみで仕入税額控除を行えるルールがありますが、インボイス制度では廃止されます。

【対価の額が3万円未満の請求書等の扱い】

請求書等保存方式 区分記載請求書等保存方式 インボイス制度
帳簿保存のみでOK 左同 保管は必須
(ただし適格請求書の交付義務が免除されるものを除く)

■記載要件を満たさない請求書を受け取ったとき

取引先から記載要件を満たさない請求書を受け取ってしまった場合、区分記載請求書等方式では、現行の請求書等保存方式から追加事項となる
・取引内容(軽減税率対象品目については、その旨)
税率ごとに合計した対価の額(税込)
の記載漏れに限り、自ら追記して保存することによって仕入税額控除を行ってよいこととされます。(ただし、これ以外の項目を追記することは認められません)
これに対してインボイス制度では、発行元に修正を依頼しなければ仕入税額控除を行うことはできません。

消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A 問21
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

免税事業者が受ける影響

請求書等保存方式や区分記載請求書等保存方式において、請求書等の発行事業者に対する制限は特にありません。
これに対してインボイス制度では「適格請求書等」を発行できる事業者を「適格請求書発行事業者」とし、その登録を行えるのは、課税事業者に限定しています。
このことから免税事業者は、インボイス制度のもとで、取引先が仕入税額控除を行うために必要な請求書を発行できなくなってしまいます。


請求書等保存方式 区分記載請求書等保存方式 インボイス制度
名称 請求書等 区分記載請求書等 適格請求書等
発行者 誰でも発行できる 誰でも発行できる 適格請求書発行事業者のみ

課税事業者にとっては「適格請求書等」を発行できる相手と取引すると、仕入税額控除に計上できる税額分だけ、納付する消費税額を節税できます。
つまり、課税事業者にしてみれば、全く同じ商品を購入したり、サービスを受けたりするのであれば「適格請求書等発行事業者」から仕入れた方が得になるということです。
課税事業者との取引が多い免税事業者にとっては、大きな問題となります。

■免税事業者の経過措置

インボイス制度開始後、すぐに免税事業者との取引が仕入税額控除の対象外となってしまうわけではありません。
インボイス制度の開始後、下記の期間については、免税事業者との取引きした金額の一部を仕入税額控除に計上できる経過措置が設けられます。

2023年10月〜2026年9月30日まで 仕入税額の80%
2026年10月〜2029年9月30日まで 仕入税額の50%

■経過措置の間に取引をしたら

仕入税額控除の経過措置を受けるには、課税事業者は、免税事業者が発行する「区分記載請求書等保存方式」と同様の記載事項を満たす請求書等を保管する必要があります。
つまり免税事業者は、インボイス制度でも「区分記載請求書等保存方式」の発行を継続していくこととなるでしょう。
帳簿の記載要件については、「区分記載請求書等保存方式」の内容に加えて、取引内容に「経過措置の適用を受ける課税仕入である旨」(例:「80%控除対象」など)の記載が必要になります。

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