高年齢の従業員を働き手として確保したい事業者におすすめな3つの補助金等を紹介します。
60歳を迎えた従業員(※1)の賃金が、60歳到達時点に比べて75%未満に低下した場合、その賃金の一定割合に相当する給付金を65歳まで受けることができます。
給付金の額は、賃金の低下割合が大きいほど優遇されますが、令和7年度からは60歳到達日を基準に、下記のように支給率が変更されます。
60歳に達した日(※2)が
・令和7年3月31日以前の場合:各月の賃金の15%が限度
・令和7年4月1日以降の場合:各月の賃金の10%
(画像出典)厚生労働省:令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します
(参考)厚生労働省:雇用継続給付について
(※1)雇用保険の被保険者の方に限られます
(※2)60歳に達した日に雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ない方は、その期間が5年を満たすこととなった日と読み替えます。
60歳以上の従業員(労災保険適用者)の労災防止のための設備改善などを対象とする補助金です。
令和7年度は、以下の3コース(※転倒防止・腰痛予防のための運動指導コースは予算達成のため終了)があり、申請期限は10月末です。
(画像出典)厚生労働省:エイジフレンドリー補助金リーフレット
(参考)厚生労働省:エイジフレンドリー補助金
65歳以上の雇用を積極的に行う事業者に向けた助成金です。取り組み内容に応じて以下の3つのコースに分かれており、コースごとに助成金の額が異なります。
65歳以上の定年引き上げや定年制廃止、希望者への66歳以上の継続雇用制度導入などへの取り組み
・取り組みと対象人数に応じて10万円〜160万円
賃金・人事処遇、働き方(時間や場所)、健康管理などの社内制度を、高年齢の従業員が働きやすいよう整備する取り組み
・支給対象経費×60%(中小企業以外は45%)
50歳以上で定年未満の有期契約の高年齢従業員を無期雇用に転換する取り組み
・対象労働者1人あたり30万円(中小企業以外は23万円)
(参考)厚生労働省:令和7年度65歳超雇用推進助成金のご案内
在職老齢年金とは、賃金と年金の両方を受け取る場合に月あたりの合計が一定額を超えると、老齢厚生年金(報酬比例部分)の一部または全部が支給停止となる制度です。
制度が創設されたのは昭和40年(1965年)で、もともとは、被保険者資格を喪失した「退職者」のための厚生年金を、高齢になっても働く「在職者」にも支給できるよう導入されました。その後、社会の変化とともに改正を繰り返し、現行の在職老齢年金制度に至っています。
本記事では、現行制度の内容や、在職老齢年金制度のよくある誤解などを解説します。
在職老齢年金とは、「基本月額+総報酬月額相当額」が「支給停止調整額」を超えると、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される制度です。
「基本月額」とは、加給年金額を除いた「老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額」であり、「総報酬月額相当額」とは、「その月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額を12で割った額」になります。大ざっぱなイメージとしては、「厚生年金+会社からの給与(ボーナス込み)」を、1か月分に換算した額のことです。
「支給停止調整額」とは、在職老齢年金の支給停止が生じるラインであり、名目賃金変動率などにより、年度ごとに見直されます。
令和7年度の支給停止調整額は「51万円」です。主に物価上昇の影響で、令和6年度の「50万円」から引き上げられました。
したがって、現在は厚生年金と賃金を1か月分に換算した合計額が「51万円」を超えると、その超過分の2分の1に相当する老齢厚生年金が支給停止となります。
(画像出典)日本年金機構HP:在職老齢年金の計算方法
在職老齢年金の計算方法も確認していきましょう。
基本月額とは前述のとおり、加給年金額を除いた「老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額」です。仮に年金200万円の内訳が、老齢基礎年金80万円、老齢厚生年金120万円である場合、老齢厚生年金の1か月分である10万円(120万円÷12)が基本月額となります。
総報酬月額相当額とは前述のとおり、その月の標準報酬月額と、その月以前1年分の標準賞与額の12分の1の合計となります。
仮に、社会保険の標準報酬月額が41万円、前1年分の標準賞与額の合計が108万円であれば、総報酬月額相当額は50万円(41万円+108万円÷12)になります。
上記の例のとおり、基本月額10万円、総報酬月額相当額50万円であれば、令和7年度の支給停止額は、4.5万円です。
(10万円+50万円−51万円)÷2=4.5万円
→ 4.5万円が支給停止額
したがって、老齢厚生年金の支給額は10万円から4.5万円が差し引かれ、5.5万円になります。
令和7年6月13日に成立した年金改正法により、令和8年4月以降の在職老齢年金の支給停止調整額が、現行の「51万円」から「62万円」へ引き上げられる見通しです。
この大幅な改正に至った主な理由は、人手不足が深刻化するなかで高齢者の活躍の重要性が増しており、労働をできるだけ抑制しないための見直しと説明されています。
なお、この「62万円」は、令和6年度の賃金水準をもとに設定された金額であるため、今後の物価や賃金の変動によって変更される可能性があります。
最後に、在職老齢年金制度について、よくある誤解を紹介します。
在職老齢年金の減少額は「支給停止調整額の超過分の2分の1」です。
そのため、月給やボーナスが増えて、年金の一部が支給されなくなったとしても、トータルの手取り(賃金+年金)は増える仕組みになっています。
「もらえる年金が働くほど少なくなる仕組み」ではありますが、働いた分だけ損になるわけではありません。
かつては、年金額の一定割合を一律で停止する仕組みが導入されていた時期があり、賃金が増えると「賃金+年金」の手取りが逆転することもありました。この状況は1994年の改正により解消されていますが、「働き損」という印象は今もなお残っているようです。
前述のとおり、支給停止となるのは「支給停止調整額の超過分の2分の1」ですので、支給停止調整額を超えても年金が直ちにゼロになるわけではありません。
また、支給停止となるのは老齢厚生年金と加給年金であることから、仮に全額支給停止となっても、老齢基礎年金(国民年金にあたる部分)や経過的加算には影響しません。
2022年度より前の在職老齢年金では、「60歳から64歳」と「65歳以上」で、適用される支給停止の基準が異なりました。
たとえば2021年度では、65歳以上の支給停止調整額は「47万円」であったことに対し、60歳から64歳までは「28万円」で、計算方法も複雑でした。
2022年度以降の支給停止の基準は、60歳から64歳までの方も、65歳以上と同じになっています。
在職老齢年金の概要や支給停止の基準、計算方法、よくある誤解について解説しました。在職老齢年金の支給停止調整額は、令和8年度に「62万円」への引き上げが予定されるなど、制度の見直しが進んでいます。
60代からの役員報酬などで在職老齢年金の影響が気になっていた方は、ぜひ参考にしてください。